40歳男子のたしなみとして、知ってて当然の時計の知識。聞きづらすぎる素朴な疑問を本誌時計連載でお馴染みの時計ジャーナリスト・篠田さんにぶつけてみた!
本誌連載をはじめ40以上の媒体で時計記事を担当。もっと知りたくなったら篠田さんの著書『教養としての腕時計選び』(光文社新書)を!
Q1|ズバリ、時計の魅力ってなんですか?
A|無駄を楽しむという贅沢さ
スマホがあれば時間はわかる時代に、あえて時計をつけて楽しむということは、心に余裕があって豊かだからこそできることだと思うんです。それって無駄だけれど贅沢なこと。なくてもいいものにこだわるっていうのが人間らしくていい。そして、時計をつけていることで「こういうものが好きなんだな」って周りの人に対して表現できるところもいいですよね。
Q2|なぜこんなに高いのでしょう…
A|気が遠くなるほど人手がかかるから
高いですよね(笑)。時計って労働集約型産業なんです。時計師になるために難しいテストをクリアして学校に入り、何年もかけて修業します。そういう人たちが気の遠くなるほど細かい作業を、時間をかけて行っているというのが高くなる理由なんです。例えば「A.ランゲ&ゾーネ」の青い針は、鉄の針を一本ずつ約300度まで熱して酸化皮膜をつくることで青くしています。また、裏返すと見える中の機構に使われているパーツは、エッジを45度の斜面に落として磨いているんですね。さらにそのパーツには、ルーペがないと見えないくらい繊細な彫金が施してあるんです。これらすべてが人の手で行われています。選ばれし人たちが選ばれし場所で時間をかけて作っているから、というのが価格が高いいちばんの理由なんです。この無駄にかけることの意味を理解していないと、ただ値段が高いものということになってしまう。みんなが無駄を追求しているんです。それが豊かさであり、文化なので。
Q3|家族を納得させる言い訳を教えてください!
A|「自分一人だけで終わるものではない」とプレゼンをしてみる
換金性があるということだけでなく、子どもに譲って家族で思い出をつないでいくものという側面を強調するのが大切なのではないでしょうか。また、パートナーとシェアするというのも時代には合っていると思います。男性の腕時計の好みが小さいものになる一方、女性のそれは大きくなりつつあるので36〜38㎜径は一緒に使いやすいかもしれませんね。一人だけのものじゃない、と伝えることが家庭内プレゼンでは有効です(笑)。
Q4|買うのにベストなタイミングとは?
A|節目のときに買い、物語込みで楽しむ
お金のことだけで言ったら、いちばんいいタイミングはいつでも今日(笑)。常に高くなっていくので。でも、結局は節目や思い出の記念に買うのがいちばんいいんじゃないでしょうか。常に身近に置いて自分の歴史を刻んでいき、“あのときに買ったな”と振り返れるところがいいんですよね。例えば、子どもが生まれたときにこんな大人になってほしいというメッセージを込めて選び、大人になるタイミングで譲るという方もよくいると聞きます。僕は初めて単行本を書いたときに、取材で行ったジュネーブでパテック フィリップの時計を購入しました。その経験込みで思い出です。時間と連動した節目で買うと、単なる物質を超えたものになると思うんです。
Q5|紛失や盗難が心配。対策は?
A|“逆TPO”を心がける
日本ではそこまで気にする必要はないですが、海外では悪い人を刺激するような場所へはつけていかない“逆TPO”を意識しています。物騒なエリアへ行くときや夜遊びするときはカジュアルなスポーツウォッチを選んだり。落として壊してしまうような事故をカバーする保険もあります。また、傷がついてしまったらメーカーに磨き直しに出すことで、傷が薄く目立たなくなります。