2024.10.22

【GRAND SEIKO】「グランドセイコー」はなぜ人気? その魅力とは? 腕時計のプロが解説【大人の一生モノ腕時計】

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世界最大の時計展示会「ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブ」に、非欧州ブランドとして唯一参加している「グランドセイコー」。近年は日本が世界に誇るラグジュアリーウォッチブランドとして、ヨーロッパでも高い評価を得ている。一体、何がすごいのか? 人気の理由を腕時計ジャーナリストの篠田哲生氏が解説。あわせて、大人が選ぶべきモデルと愛用者の声も紹介しよう。

“品質のみ”という評価は過去の話

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グランドセイコーが生まれたのは1960年。スイス時計を目標とし、高精度の美しい時計を探求してきた。2017年に独立ブランドとなり、デザイン領域やモデル展開を拡充。

さんざん擦られた話ではあるが、「日本企業は、品質は高いがブランディングがよくない」といわれることが多い。かれこれ数十年も言われ続けているのもどうかとも思うが、確かにスイス時計業界の、歴史や伝統、技術など、さまざまな角度からブランドの魅力を語りかけてくるブランディング戦略の巧みさには唸らされる。

その点、日本の時計ブランドが不利であることは否めない。江戸時代まで不定時法という時間軸で暮らしていたため、西洋の時計文化が日本に入ってくるのは、明治維新以降のこと。機械式時計は14世紀から製作されていることを考えると、その時点で時計文化は5世紀分のディスアドバンテージということになる。

そういう観点からすれば「グランドセイコー」が、これだけの地位を確立したというのは奇跡的なことかもしれない。

2021年、「SLGH005」が数々の賞を受賞

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「エボリューション9 コレクション SLGH005」自動巻き(Cal.9SA5)、SSケース、ケース径40㎜ ¥1,210,000

「グランドセイコーが、世界的なラグジュアリーウォッチブランドとして名声を得ている」。それは日本の時計関係者が、身内びいきで祭り上げているわけではない。

例えば世界各国のジャーナリストの投票で選出される「Le Grand Prix d'Horlogerie de Genève (GPHG/ジュネーブウォッチグランプリ)」では、グランドセイコーの「SLGH005(写真上)」が2021年のメンズウォッチ賞を獲得している。

 同モデルはドイツ最高峰のデザイン賞であるレッド・ドット・デザインアワードにて、プロダクトデザイン部門の最高賞「Best of the Best」も受賞し、さらには日本のグッドデザイン賞も受賞している。

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スイスのジュネーブで開催された「ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブ」。パテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタン、A.ランゲ&ゾーネといった名門と、グランドセイコーは肩を並べたのだ。

2022年からは、世界最大の時計展示会「ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブ」に非欧州ブランドとして唯一参加。スイス時計文化の本丸で大きなブースを構え、世界中から集まったジャーナリストやリテーラーに、自信作を発表している。

これまでの“品質のみ”という評価は過去となり、ヨーロッパでもブランドの格やデザイン性も高く評価されるようになったのだ。

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2024年度グッドデザイン賞を受賞した「エボリューション9 コレクション SLGW003」。手巻き、ブリリアントハードチタンケース、ケース径38.6mm ¥1,452,000

人気の理由は技術力とデザイン力

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新型ムーブメントのCal.9SA4は、あえて10振動の手巻き式にこだわった。巻き上げる際の感触にもこだわっており、グランドセイコーに新たな魅力を加えた。

「グランドセイコー」が名声を築いた源泉とは何か? それは技術力とデザイン力である。

技術力といってもスイスの時計ブランドとはかなり趣が異なる。一般的にスイスの高級時計ブランドは、時計文化の結晶である機械式ムーブメントこそ自社で製造するが、電気仕掛けのクオーツムーブメントは、ノウハウがないため専門会社から購入することが多い。

しかしグランドセイコーでは、9S系と呼ばれる機械式ムーブメント、9F系と呼ばれるクオーツムーブメント、そして機械式時計のぜんまいがほどける力によって生じるトルクを動力源としながら、ICと水晶振動子によって正確に精度を制御する9R系と呼ばれる独自技術のスプリングドライブムーブメントの3種を自社で製造している。こういった戦略を推進する時計ブランドは他には存在せず、それがグランドセイコーの稀有なオリジナリティとなっている。

デザインもグランドセイコーを語る上で欠かせない要素だ。前述したとおり、ムーブメントの駆動は3種類。それぞれに機構が異なるため、針を動かすトルクも異なるが、デザインは統一されたスタイルで貫いているので、グランドセイコーのイメージはより強固になっている。

他とは違うグランドセイコーのダイヤル装飾

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グランドセイコーの機械式時計の製造拠点である「グランドセイコースタジオ 雫石」の近くに広がる白樺林をイメージしたダイヤル装飾。

さらにグランドセイコーでは独自の技法で、ダイヤル装飾の新時代を築いている。スイス時計のダイヤル装飾といえば、19世紀に考案された「ギヨシェ」が一般的。これは金属板に筋目を彫り込んでいく技法で、立体的な幾何学模様でダイヤルを美しく装飾する。

しかしグランドセイコーでは、職人が彫った金型を使って金属板に凹凸をつくる「型打ち」技法を用いることで、さまざまな表現をダイヤル上に作り出す。しかもその表現も多種多彩。グランドセイコーの製造拠点である岩手県雫石町や長野県塩尻市の周辺に広がる白樺林や岩手山、諏訪湖や穂高連峰といった風景を表現したり、二十四節気(にじゅうしせっき)を色や装飾で表現したりと、日本ならではの風土や文化、美意識を巧みに表現している。こういった表現はスイス時計には存在せず、グランドセイコーの美しい個性として高く評価されている。

グランドセイコーの技術力は、スイスのライバルと比較しても遜色はない。その上、独自の駆動システムという個性もある。さらには日本の文化や風土を投影した美しいダイヤル表現という武器も得た。もはやグランドセイコーは、ラグジュアリーウォッチの世界において誰もが無視できない存在になっている。グランドセイコーのブランド力に気が付いていないのは、ひょっとして日本人だけなのかもしれない。

篠田哲生プロフィール画像
腕時計ジャーナリスト
篠田哲生

時計の機構や技術にも精通しており、スイス時計取材歴は20年近くに。時計は新しいほうが好きで結構ミーハー。
 

大人が選ぶべきグランドセイコーの限定モデル3選

雨に濡れた銀座の光景を変色するコーティングで表現

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銀座はセイコーの創業の地であり、伝統と革新が共存しながら進化していく独自の文化を持った街。梅雨の時期は、雨に濡れた通りにビル群の灯りを映して、幻想的な光景を生み出す。

そんな銀座の街を、光の当たる角度によって変色する「光学多層コーティング」を用いて、黒や濃紺や紫などに、ほのかに変化するダイヤルで表現。不揃いな水色の分目盛は雨を表している。

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Heritage Collection 銀座限定モデル ¥946,000

秋の穂高連峰を表現したグラデーションダイヤル

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夜の静けさに包まれていた穂高連峰が朝日に照らされ、美しい紅葉が現れる様子をグラデーションダイヤルで表現。凛々しい山肌のような有機的な型打模様をダイヤルに施している。

めりはりと曲面美を併せ持つケース、時の流れとともに変わりゆく情景を表現したダイヤル、そして赤みがかった茶色のクロコダイルストラップを組み合わせることで、荘厳な穂高連峰の秋のひとときを一本の腕時計の中に凝縮させた。

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Elegance Collection キャリバー9R 20周年記念限定モデル(SBGY035) ¥1,166,000

清涼感たっぷりのダイヤルカラーが魅力

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ダイバーズウォッチとしては、2016年以来、8年ぶりの登場となる和光限定モデル。スポーツコレクションの1本をベースにしており、ザラツ研磨がもたらす歪みのない鏡面仕上げをほどこしたケースや、光沢感が際立つ回転ベゼルなど、スポーティーな中にもグランドセイコーらしい品格をあわせ持つデザインが特徴となっている。

目を引くのは初夏の銀座をイメージしたシルバーブルーのダイヤル。夏に向かって装いも軽やかになり、日中はやや汗ばむくらいの気候を意味した初夏の季語「薄暑」の季節に、爽やかな陽光が輝くセイコーハウス銀座の空を表現している。

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スポーツコレクション 和光限定モデル  ¥935,000

おしゃれな大人が愛用するグランドセイコー

祖父から受け継いだトロピカルダイヤル

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「このグランドセイコーは1970年代に製造されたもので、自動巻きの最終期と言われる“56GS”です。当時の国産らしい誠実な佇まいが気に入っています。祖父の形見分けとあって思い入れが強い一本です。幼い頃から、人がどんなアクセサリーや時計を着けているか気になっていて、祖父が大事にしていた時計は貴重なモノなんだろうと感じていました。70年代当時の日本には勤続記念で時計を贈る文化があって、祖父はこのグランドセイコーを職場仲間からプレゼントされたと喜んで話していました」

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「新品時は文字盤が白だったようです。私が物心ついた90年代には、すでにうっすらオレンジ色に焼けていたことを覚えています。通称“トロピカルダイヤル”と呼ばれますが、小さい頃は美しい色とは思えなかった。今となってはこの焼けに愛着を持っているので、リダン(文字盤の打ち換え)をする気はありません。ベルトは元々ステンレスでしたが、今はオーストリアのヒルシュの牛革に」
 

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