2022.05.25
最終更新日:2024.03.07

【はじめての「グランドセイコー」】「メイド イン ジャパン」をキーワードに選ぶ3本

世界から一目置かれる日本の高級時計として、文化系男子が憧れるグランドセイコー。実際に買おうと思うと、数多あるモデルの中から、自分に合う1本を選ぶのは至難の業だ。そこで『教養としての腕時計選び』の著者であり本誌連載でもおなじみの時計ライター、篠田哲生さんに「初めてのグランドセイコー」指南を依頼。「歴史」「メカニズム」「デザイン」「メイド イン ジャパン」の4つのキーワードでレクチャースタート! 第4回はグランドセイコーの「メイド イン ジャパン」を軸に、おすすめモデルを選んでもらった。

【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_1

日本の情景をダイヤルで表現する

スイスの高級時計を目指してスタートしたグランドセイコーは、技術で世界を凌駕し、デザインでも個性を打ち出し、ラグジュアリーウォッチとしてのステイタスを築き上げてきた。ここ数年取り組んでいるのが、メイド イン ジャパンを多様に表現した情緒ある時計づくりだ。


「高級時計は人間の手でつくられています。誰がどこでつくっているのかをとても重要視します。スイス製ならメイド イン スイス、スイスでもジュネーブでつくられているなら、ダイヤルに“GENEVA”と明記してアピールします。グランドセイコーは現在、岩手県雫石で機械式時計を、長野県塩尻でスプリングドライブとクオーツ式時計をつくっています。最近ではグランドセイコーがつくられる土地の情景をダイヤルに表現することで、2つの工房の特性を打ち出すようになっています」(篠田)



【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_2
岩手県雫石の「グランドセイコースタジオ 雫石」は建築家の隈研吾による設計。大和張りで時を刻むリズムを表現。


グランドセイコーは「グランドセイコースタジオ 雫石」と「信州 時の匠工房」の2カ所でつくられ、どちらの工房にも取材や見学のオファーが絶えず、コロナ禍以前は海外の時計ジャーナリストも訪れていた。


「グランドセイコースタジオ 雫石の窓からは、雄大な岩手山が望めます。冬は雪化粧ですが、夏はゴツゴツとした岩肌が見える。その岩肌にインスピレーションを得たデザインを文字盤に表現することで、雫石でつくられていることをアピールすると同時に物語性も添えられるんです」(篠田)


立体感のある複雑な型押しは「岩手山パターン」として、グランドセイコーのデザインコードに。ちなみにこの雫石のスタジオは、もともとは社員寮だった。新しい工房には、その場所で生まれ育った若者も働いているという。


「スイスの時計ブランドはもちろん、エルメスのようなヨーロッパの高級な職人系のブランドでも親子三代が同じ工房で働くということはよくありますが、雫石にもまさにそのような伝統が根付き始めています。おじいちゃんもお父さんもセイコーで、自分もそこで働く。つまり職人が誇りを持って仕事をしているということです。それが高い技術力を裏付け、ブランド力になっていくわけです」(篠田)


職人を大事にすることはブランドの発展や存続に欠かせない。グランドセイコーが健全に歴史を積み重ねてきた証とともいえる。



【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_3
スプリングドライブが開発された信州・諏訪地方。ムーブメントにも信州の山脈をイメージした形状を取り入れたものがある。


「信州 時の匠工房の近くには諏訪湖があり、冬には全面結氷した湖がせりあがって氷の山脈ができる神秘的な自然現象があります。これは諏訪神社上社の建御名方命(男神)が下社の八坂刀売命(女神)のもとへ通った路と信仰され『御神渡り』と言われています。グランドセイコーでは信州 時の匠工房を象徴するデザインとして『御神渡り』パターンも展開しています」(篠田)


海外でも人気を博すグランドセイコーは、工房のまわりの自然だけでなく、日本の気候風土にも注目し、二十四節気を文字盤にデザインしたモデルも手がけるようになった。



【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_4
二十四節気モデルのSBGJ251の文字盤。春の到来を山奥にひっそりと咲く山桜にたとえ、グリーンダイヤルとピンクゴールドのGMT針で表現。


「世界各国にはベストシーズンが存在します。日本の場合は、一年を二十四節気として細かく分類し、それぞれの時期によさがあり、すべての気候を楽しむという文化です。だからこのシリーズにはいろいろなバージョンがあって、自分の生まれた時節を選ぶこともできますし、記念品などにもおすすめです」(篠田)


単なるメイド イン ジャパンではなく、そこにはグランドセイコーが大切にする日本の文化や心象風景までが映し込まれている。


「日本だからこそできるものを常に追求しているから、グランドセイコーのメイド イン ジャパンの表現には趣や深みがあります」(篠田)


【メイド イン ジャパン】をキーワードに選ぶ3本

【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_5
【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_6
時計¥737,000/グランドセイコー(セイコーウオッチ お客様相談室)

Grand Seiko|SBGJ235 メイド イン 雫石を象徴する「岩手山パターン」

「雄大な岩手山の山肌を表現した『岩手山パターン』をブルーダイヤルに繊細な型押しで表現しています。肉眼では細部までは見えませんが拡大鏡で見ると、本当に月光を照り返す冬山のように見えるんですよ。匠の手仕事ならではのデザインとして、高い評価を得ています」(篠田)


44GSをベースにしたオーセンティックなセイコースタイルのGMTモデル。深いブルーの文字盤と歪みのない鏡面仕上げのケースのコントラストが美しい。


ケース径40mm ステンレススチール 自動巻き


【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_7
【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_8
時計¥935,000/グランドセイコー(セイコーウオッチ お客様相談室)

Grand Seiko|SBGY007 諏訪の神秘的風物「御神渡り」をイメージ

「諏訪湖の御神渡りをイメージさせるようなアイスブルーの文字盤に氷の山脈のような凹凸が、単純な凸凹ではなく情緒豊かに表現されています。セイコースタイルは踏襲しつつも、インデックスや針はややほっそりと。ケースも小ぶりでエレガントなルックスに仕上がっています」(篠田)


クロコダイルのネイビーレザーバンドにもクラス感が漂う。約72時間の持続時間を持つ手巻スプリングドライブキャリバーを搭載。シースルーバックから、ヘアライン仕上げの美しいムーブメントを見ることもできる。


ケース径38.5mm ステンレススチール スプリングドライブ


【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_9
【はじめての「グランドセイコー」】「メイの画像_10
時計¥759,000/グランドセイコー(セイコーウオッチ お客様相談室)

Grand Seiko|SBGA443 春分の後の桜を表現した二十四節気モデル「花筏」

「ピンク一色ではなくグレイッシュに見える部分もある、複雑な紋様の文字盤が印象的です。アメリカでCherry Blossomとして発売したところ大好評で、日本でも発売になったという逆輸入的なモデル。日本では単純に桜でなく、『花筏(はないかだ)』という物語性のある名称になり、春分の頃の儚い桜の美しさが見事に表れています」(篠田)


「花筏」は春分の頃に桜が散って水面に落ち、渦を巻いて浮き流れる様子。1967年に発売されたグランドセイコー初の自動巻き機械式モデル「62GS」の、ベゼル(ガラス縁)のない構造を生かしつつモダンにアレンジしたデザイン。


ケース径40mm ブライトチタン スプリングドライブ


篠田哲生 | 時計ライター TETSUO SHINODA

時計学校にて理論や構造、分解組み立ての技術なども学んだ経歴を持つスペシャリスト。時計専門誌からファッション/ライフスタイル誌まで、多数の媒体で時計記事を執筆。著書に『教養としての腕時計選び』(光文社新書)などがある。


セイコーウオッチ お客様相談室 TEL:0120-061-012

Photos: Naoki Seo
Composition & Text: Hisami Kotakemori

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