歳を重ねた今こそ、このバランスを個性に
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「実はこのロードスターは、妻の叔父の形見として30歳ぐらいのときに受け継いだもの。妻の叔母に僕がファッション好きだと伝えたら、実は時計をお墓に入れようと思っていたけど、それなら受け継いで使って欲しいと言ってくださり、カルティエとロレックスの2本をいただきました。叔父と叔母は30年くらいロンドンに住んでおり、2000年代にスイスで購入したようです。受け継いだ当時は、かなりゴリっとしたデザインが自分にはあまりピンとこなくて、箱にしまったまま寝かせてしまいました。そして今から2~3年前、40歳になったときに『今だったら似合うんじゃないか』と思って着け始めました。意識したわけではないですが、トレンドのラグジュアリースポーツ枠でありながら人と被らない点もお気に入りです。カルティエは人気ですが、これまでこのロードスターを着けている人に会ったことがない。金無垢や金とシルバーのコンビ、クロノメーター仕様もあったみたいですが、かなり短命のモデルだったようですね」
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「見た目がスポーティなので、タイドアップするスーツには着けませんが、今日のようなカジュアルなジャケットとは合わせることが多いです。ただ、パリは治安がよくないため、半袖の時に高級時計はしないようにしています。以前にロレックスを着けて地下鉄に乗ったら、ストリートキッズに狙われかけたこともありました。もちろん、ニットやアウターで袖口が隠れる冬場は、時計も含めてファッションを楽しんでいます。やはり時計は気分も上がりますからね」
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「トノーはクラシカルで好きなんです。カルティエも“トーチュ”といわれる亀の甲羅のような形の時計を展開していて、1990年代後半にCPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ)というメンズの高級ラインを出した時期にもトーチュのモデルがラインナップされていました。あとは薄型のドレスウォッチより、ややゴツめのスポーティなモデルが好き。ちゃんと時計を“着けている”感覚がするんですよね。当時はトノー型とステンレスのブレスに変なミックス感を覚えていましたが、40代になってそのバランスこそが個性として好きなポイントになりました。自分で買った時計もありますが、ロードスターは形見でもあり特別な存在。これからも使いながら大事にしたいです」
2008年に1LDKの立ち上げに参画し、全店舗のバイイング、マネージメントを経験。15年からはパリ店勤務となり16年に独立。ファッション インプルーバーとして、さまざまなショップ、ブランドの価値を高める仕事をスタート。現在はパリで自らのショップ「PARKS Paris」を営むほか、昨年9月には目黒区五本木に「Keylime Tokyo」をオープン。
Photos: Yumi Yamasaki
Text: Yasuyuki Ushijima