時計が厚いとドレスシャツの袖が決まらない
「マイルールとして、ドレスウォッチを買ったら次はスポーツウォッチ、その次はドレス…とバランスよく買うようにしています。そんな感じでドレスウォッチを探しているときに出会ったのがコレでした。通称“クルー・ド・パリ”と呼ばれるモデルで、“パリの石畳”という意味なのですが、文字盤に浅いピラミッド型の模様が規則的にギヨシェ加工されているものです。バンドに同じような細工が施してあるのも面白くて、時計とバンドが一体型になっています。さらに素材がさりげなく高価なホワイトゴールドというのも、惹かれたポイントのひとつでした。ヴィンテージウォッチは古着と同じで、基本は出会い。ネットで調べてこれが売っているからこのお店に行くということはあまりせず、この個体も本当に偶然の出会いでした。お世話になっている時計屋さんが何軒かあるので、たまに立ち寄って、そこでいいものに出会えたら買う、という感じです。色々調べてみると、時計以外にも例えばお皿でもこの細工が施されていると“クルー・ド・パリ”仕様と呼ぶのも面白いと思いました」
「この時計は1960年代製。この薄さでオートマティックというところもお気に入り。ちょうどこの時期は各社が自動巻きでどこまで薄くできるかを競い合っていた時代。オーデマ・ピゲだからこそこの薄さというのがすごいですよね。なぜ薄さにこだわるかというと、ドレスシャツを着るときに時計が厚いと袖が決まらないから。シャツを着ることを考えて、より薄めのモデルを探すようにしています。スーツを着るときにも着けることが多いですが、このモデルに関してはフレンチっぽいテイストを入れたいときに合わせるとハマります。最近は『アルニス』の古着の人気から派生して脚光を浴びている『レノマ』や『ハズバンズ』など、60年代から70年代のフランスの装いに着想を得たブランドが気になっているので、そういったブランドとも相性がいいですね」
「ドレスウォッチは手巻きが多いので、朝ついつい巻いてしまいがち。この時計はオートマティックなのに、今朝も間違えて巻いてしまいました(笑)。デザインの普遍性もあって、本当にこの時計に関しては非の打ちどころがない。スーツだけじゃなく、カジュアルな着こなしにも合うなど守備範囲も広い。だからもう欲しい時計はないのかと思われがちですが…しっかりあります(笑)。自分のようにファッションを仕事にしていると、時計も含めてひとつのファッションにしていないとプロとして納得がいかない。例えば『靴と時計のバンドの色が合っていない』とか『この時計、全然着こなしと合ってない…』みたいなことに気持ち悪くなってしまうんです。そういった点で様々な時計が気になるのですが、今はタグホイヤーのモナコがめちゃくちゃ欲しい。時計単体で見ても格好いいし、自分の世代だとスティーブ・マックィーン(映画『栄光のル・マン』で着用したことで有名に)ともぎりぎりリンクしてくる。ただ、70年代の時計は今自分がしたいファッションに合わせるのが難しいなと感じています。そんな選び方をしている人はあまりいないんですけどね(笑)」
セレクトショップのバイヤーとして勤務後、さまざまなブランドの立ち上げに参画し、2012年に自身のブランド「SUN/kakke(サンカッケー)」をスタート。また、フリーランスのデザイナーとしてデザインやディレクションを手がける。
Photos: Yumi Yamasaki
Text: Yasuyuki Ushijima