サンタマリアコインが埋め込まれた貴重な一本
「数々の名作時計をデザインした巨匠、ジェラルド・ジェンタが1970年代に作った一本を愛用しています。インドネシアに時計愛好家の友人がいるのですが、元は彼のお父様が着けていたものでした。縁あってつい最近譲り受けたのですが、貴重なものゆえ本当にいいのだろうか…というのが正直な思いです。それまでジェンタ名義の時計といえば、ミッキーマウスが描かれたミッキーウォッチしか知りませんでした。この時計について調べたところ、ダイヤルの中にコロンブスがはじめて大西洋横断に成功した際に使われた帆船(サンタマリア号)を描いた金のコインが埋め込まれており、通称“サンタマリアコイン”と呼ばれているようです。またケースの縁の黒い部分には、エボニー(黒檀)を使う凝りよう。ジェンタの娘であるイブリンが着けていることも知りました。会う先々で「その時計どこの?」と聞かれるので、やはりデザインとして優れているのだと思います」
「譲り受けた当初は、どうスタイリングするかをずっと考えていました。今日はポロシャツにジャケットという、ややドレスに寄った着こなしに。この時計はドレスウォッチの部類だと思いますが、ベレー帽を被るなど、ドレスとカジュアルの間のような着こなしに合わせることが多いです。これまでも1974年製のパテック・フィリップや、今となっては大変希少なカルティエのバンブーを愛用してきましたが、個性的な'70年代の時計が好きなんです」
「時計を選ぶ際に重要視するのはデザイン。ドレススタイルが多いので、ケース径は36mmくらいがベストだと思っています。次に欲しいと思う時計は特に決めていません。ヴィンテージを見に行って、「これいいな!」と思ったときに余力があれば…という感じです。ただ、将来的にポケットウォッチ(懐中時計)は絶対に所有したいと思っています。自分が50、60歳になったときに、3ピースのスーツをきちんと着てチェーンを垂らして、誰も気に留めないくらいに自然と懐中時計を見られるようになるのが理想です」
大手セレクトショップのドレス部門で販売員として勤務し、2017年に退職。18年に紳士服のオーダーサロン「レクトゥール」を立ち上げる。メイドトゥメジャーで仕立てるスーツは評判を呼び、現在は広尾と神戸にサロンを構える。海外でのオーダー会も精力的に行う。
Photos: Yumi Yamasaki
Text: Yasuyuki Ushijima