「自分を鼓舞するためのツールとして持っておきたい」
「“タンク”のように歴史を作ってきた王道の存在に憧れがあります。自分はネットメディアでライターとしてスタートして小説家になったという王道から外れたルートをたどってきたので、道を作ってきた人やものを尊敬しているんです。そういうものは得てして気品がある。声高に主張しなくても、淡々とそこにあるだけで存在感を示しています。この新作“タンク マスト”のデザインも削ぎ落とされていて、数字もレイルウェイインデックスもないですが、それでも“タンク”だと分かる。ブルーのカラーリングが美しいし、アリゲーターストラップもちょっと贅沢な気分にさせてくれます。今の時代は映えさせるために見た目を装飾して、上っ面だけよく見せようという風潮もあるので、コアな部分がしっかり存在しているものは絶対的な価値がある。その価値を認められるものに囲まれて生きていきたいというのもありますし、作家としても一時的な流行ではなく、“タンク”のように息の長い存在でありたいと思っています」
「憧れの時計ですが、理想は普段使いしたい。どこかに出かける用事がなくても、今日この日をしっかりやり遂げなきゃいけない日ってあるじゃないですか。締め切りの日とかですけど(笑)。そんな自分を鼓舞するためのアイテムとして持っておきたいと思います。仕事や作業を行う順番はほとんどルーティンになっているんですが、決まった手順の中でアクセントのように“タンク”をつけるっていう行為が加わることで、その日は特別なスイッチを入れられるようになったらいいですね」
「“タンク”をストーリーに登場させるなら、女性視点で描きたいです。安い居酒屋でたまたま出会った男の人がくたびれた格好していて、飲み方も汚い。だけど、手元に“タンク”を着けていて、そこに目が奪われる。古くから使っていそうで、その人の歴史が刻まれているよう。この人は本当に大切なものだけをきちんと大切にする人かもしれない。そう気づくシーンを書きたいです。腕時計のモデル名まで小説に出すことは稀ですが、タンクなら読み手の想像を広げてくれる、そんなエバーグリーンな時計なんだと思います」
デビュー小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)が今冬、映画化。二作目となる小説『夜行秘密』(双葉社)も話題に。他の活動に、ラジオパーソナリティやエッセイ連載など。
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Photos:Katsunori Suzuki
Text:Masato Nachi