20世紀初頭の最新テクノロジーだった「戦車」。その姿を上から見た際のキャタピラの直線的な形状から発想したケースデザインを持つ“タンク”は、1917年に誕生するや熱狂的な人気を得る。そして100年以上を経てもなお、マスターピースとして語り継がれている。
1. Design—ケースデザイン—
“タンク”のケースは長方形の2辺をすっと伸ばした直線的な形状になっていて、その先端を等幅のストラップと繋がるラグとすることで全体を調和させている。ラグの先端を柔らかくカーブさせているが、これは20世紀初頭のパリで流行していたアールデコ様式そのもの。機能的なシンプルさと贅沢品ならではの優美さを併せ持つスタイルは腕時計デザインの源流のひとつであり、今も普遍的な魅力がある。
2. Index—ローマ数字のインデックス—
“タンク”では、ほとんどのモデルで1~12のインデックスにローマ数字を使っている。教会の塔時計の時代から使われてきた伝統的なデザインであり、ヨーロッパ的なエレガントさを表現するための手法だ。さらにカルティエでは、数字を斜体にすることでダイヤルをグラフィカルに演出している。ちなみに時計業界では、Ⅳを“IIII”にするが特徴。Ⅶには“Cartier”の隠し文字が入っているので、じっくりと鑑賞して欲しい。
3. Cabochon—カボション—
数多くの傑作を世に送り出し、自社ムーブメントなども製作している本格派の時計ブランドとしての名声を得たカルティエ。しかし、英国王エドワード7世から“王の宝石商、宝石商の王”と称えられたほどの名門ジュエラーとしての美意識は変わらない。その姿勢を物語るのが、リューズにあしらわれたブルーのカボション。ここがシャツの袖口からのチラリと見えるだけでも、華やかな雰囲気を作るのだ。
4. Celebrity—セレブリティ—
エレガントな“タンク”は、多くのセレブリティを魅了し、彼らは“タンキスト”と呼ばれるようになる。その代表がポップアートの王、アンディ・ウォーホル。彼は“タンク”のコレクターでありながら、一度もゼンマイを巻き上げることはなかったという。彼にとって“タンク”は時間を見るためのものではなかった。その美しいデザインも含めてファッションとして楽しむ対象であり、いうなれば“時計を超えた存在”だったのだ
5. Innovation—イノベーション—
マスターピースとなった“タンク”だが、実はいつだって挑戦的だった。中国の寺院の門からインスピレーションを受けた井桁型ケースの“タンク シノワ(1922)”や二つの小窓で時刻を表示する“タンク ア ギシェ(1928)”、ケースが反転する“タンク バスキュラント(1922)”などの時計は、今でも新鮮な驚きがある。そして今年は、光発電式ムーブメント「ソ-ラービート™」を発表。古典だがいつでも最新なのだ。
6. Family—ファミリー—
“タンク”を冠するモデルは現在7つある。縦方向にケースを伸ばすことで力強さを増した“タンク アメリカン”やシャープな造形のメタルブレスレットが特徴の“タンク フランセーズ”、スイスにある自社工場で製作した自社製ムーブメントを搭載する“タンク MC”など個性は多彩だが、どれもが直線的なスタイルを生かしたデザインになっており、すぐに“タンク”だとわかる。このブレないデザインコードが魅力だ。