帝人ディーラー時代の仕様にこだわった
ひと昔まえのボルボといえば、とにかく四角い見た目が印象的。その世代の代表格として、未だに根強い人気を誇るのが240シリーズだ。1974年から93年まで累計280万台が生産され、先代に続き、ドイツ車とも異なる独自の堅牢性から「ボルボ=頑丈で安全」というパブリックイメージを築き上げたことにも大きく貢献した。近年ではインテリアやライフスタイル雑貨と同様、北欧(スウェーデン)プロダクトという観点からも評価が高まっている。
240シリーズといえば、積載力が高いステーションワゴンを選ぶ人が多いが、people showroomを主宰する山田昭一さんが選んだのはセダン。今や見ることが減った乗用車の基本形は、その角張った造形も相まって、フォーマルで洒落た雰囲気を醸している。
「実は、以前に240のステーションワゴンに乗っていたんです。その後、トヨタのランドクルーザー80に乗って、その次はメルセデス・ベンツのW123を狙っていたのですが、たまたまこの個体に出会ってしまって。これは運命だと思い、購入しました」
山田さんがひと目惚れした個体は、86年までボルボの輸入代理店だった帝人ボルボのディーラー車。2.1ℓのSOHC直列4気筒エンジンに3速ATという古典的な組み合わせに加え、後期型と比べて内装のアームレストの位置やホーンボタンの意匠が異なるなど、いい意味で古めかしいディテールがたまらないという。
「外観もこの頃のディテールが好きです。真ん中が少し凹んだボンネットのデザイン(後期は凸型)や、フロントグリルの意匠なども後期型とは異なります」
実はこのクルマ、今年の6月に納車されたばかり。よって大きな苦労は今のところないが「アクセルを吹かしながらじゃないと始動後のアイドルは安定しにくい」と笑う。
「スズキのジムニー(JA11型)も所有しているのですが、そちらはサブカー。このクルマは通勤をメインとした街乗り用です。カーキャリアも付いていたのでアウトドアでも使えると思いますが、古いクルマなのでガシガシ乗るのはちょっと心配ですね」
エンジンを縦置きにし、エンジンルームにクリアランスをもたせることでクラッシャブルゾーンを確保するなど、搭乗者の安全を第一に考えて設計している点もお気に入り。パワフルではないがじわじわとスピードが上がっていき、ゆったりとした乗り心地を味わえるなど「優しい気持ちになることができるクルマ」だと山田さんは話す。
「僕はどちらかというと穏やかな性格なので、このクルマと共鳴しているのかなと(笑)。ありがたいことに仕事は多忙で、心の余裕がなくなることもあります。生活のスピードやリズム感とは真逆のクルマを所有することで、バランスをとってるのかもしれませんね。いまは仕事の行き帰りに240に乗ること自体がリラックスタイムです」
アウトドアギアに特化したショールーム「people showroom」を運営する傍ら、ブランドのディレクションやカタログの制作など、クリエイティブな仕事にも従事する。渓流釣りと野営スタイルのキャンプを愛するアウトドアパーソン。
Text:Tadayuki Matsui