NEO CLASSIC CARS 30

04
ポルシェ911[Type 993](1995年式)
2022.06.02
最終更新日:2024.03.22

ポルシェ911[Type 993](1995年式)

手嶋 慎さん(Makers デザイナー)

初期のミニマルなフォルムに魅せられた

ポルシェ911[Type 993] (1995年式)

ポルシェが空冷エンジン車の製造を終えてから25年が経とうとしている。近年では水冷エンジンを積んだ初代911(Type996)や初代ボクスターの価値も見直されてきており、「ポルシェといえば空冷」という価値観も揺らぎつつある。そんなトレンドにおいても、もっとも成熟した空冷として人気を博すのがType993(以下993)と呼ばれる最後の空冷911だ。

ポルシェ911[Type 993] (1995年式)
ポルシェ911は、1964年に先代の356からバトンタッチする形で登場。以降、基本的なプロポーションとRR(リアエンジン、リア駆動)の駆動方式を継承し、現在にいたる。993と呼ばれる4代目は93年に登場。空冷ポルシェの最終系として98年まで製造された。

シルバーの993は佇まいがいっそう凛として見える。有機的な稜線を描くボディに無機質なポーラシルバーの組み合わせは、ドイツの堅牢な工業製品として、また高水準なスポーツカーとして洗練を極めた993のキャラクターをよくあらわしている。革靴のデザイナーである手嶋さんは「この削ぎ落とされたのっぺりとしたフォルムと雰囲気に惚れた」と話す。

ポルシェ911[Type 993] (1995年式)
993はボディ下部まで丸みをおびており、それ以前の911と比べると近代的な印象を受ける。手嶋さんのモデルは通常の「カレラ」だが、ハイグレード版の「カレラS」や「ターボ」は、高出力化に伴いリアの幅がワイドになる。

手嶋さんが選んだのは「クーペ1」と呼ばれる初期型。リアウィンドウにワイパーがないシンプルなフォルムが特徴。現行のベーシックな911(Type992)と比べると、全長は約270mm以上、全幅は約120mmも小さく、今ではかなりコンパクトな部類に入る。

ポルシェ911[Type 993] (1995年式)
空冷911といえば5連メーター。初代から続いた伝統的なインパネの意匠は、993をもって刷新される。空冷911はクーラーが不調である個体も多いが、手嶋さんの993は炎天下でもしっかりと効く。ミッションは6MT。

中に乗り込んでみると、張り出したボディからの印象とはうってかわって、かなりタイト。当然ながら着座位置も低く、スポーツカーに乗っている実感が湧いてくる。とはいっても、日常で使えないほどの窮屈さはない。そこがポルシェの驚くべきバランスのよさだ。

「仕事の靴だってフロントのトランクに入っちゃうし、大阪や仙台の出張にもたまに行きます。思ったほど疲れないですよ。妻は911一台だけの生活を理解してくれないこともたまにあるけど、かつて僕が70年代のフェアレディZに乗っていたから“耐性”はついている気がします(笑)」

そう笑いながら、自身の工房がある浅草の空いた街並みを軽やかに流す。背後からは「フラット6」こと空冷水平対抗6気筒のドライで俊敏なエンジン音が聞こえてくる。決して派手ではないが、ガラガラガララララララ〜〜と重厚で精密な機械らしい回転音の心地よさは、空冷ならではといえる魅力だ。

ポルシェ911[Type 993] (1995年式)
リアフードの下におさまる、3.6ℓ水平対抗6気筒エンジン。左のエアクリーナーボックスには、前オーナーのこまめなオイル交換記録のシールが。「空冷はどのモデルもそうですが、5000kmごとの交換は必須です」。総走行距離は14.5万kmを超えるが、機関をはじめ、足回りなどのコンディションも好調だ。
ポルシェ911[Type 993] (1995年式)
「いつも何かしら一冊は車内に置いておく」という空冷ポルシェの写真集。何世代にもわたって、そのモデルの遺伝子が脈々と受け継がれ、進化してきたことを実感できる名車はそうあるものではない。

はじめてのポルシェにして、空冷の最終型である993を手にした手嶋さん。ファッション業界をはじめ、ポルシェ仲間も増えてすっかり沼へと引き込まれているが、その先に見据えるのは進化した現行の911なのか、それとも……。

「やっぱり古いほうですよね(笑)。カレラもいいけど、最近は4気筒を積んだ912や914も気になっちゃって。実は気になっている物件があるんですよ。いいお話がもらえたら、もったいないけど993を手放してでも進もうかな、なんて考えることもあります」

手嶋 慎プロフィール画像
Makers デザイナー
手嶋 慎

1979年愛媛県生まれ。レザーシューズ専業ブランド「Makers」を立ち上げ、デザインから制作までを行なう。代官山蔦屋書店では、本誌EV連載でもおなじみ『Drivethru』のディレクター・神保匠吾さんとコラボしたドライビングローファーを、6月24日まで発売中(詳細はインスタグラム@makers_shoe_asingにて)。

04
NEO CLASSIC CARS 30

LISTED

VIEW MORE >

RECOMMENDED