時を経ても色褪せない砂漠のロールス・ロイス
ある分野における最上級の製品を「●●のロールス・ロイス」と呼ぶことがあるが、レンジローバーは1970年代のデビュー当時から「砂漠のロールス・ロイス」と称されてきた。おなじ自動車同士という意味において、厳密には冒頭の比喩とは異なるかもしれないが、今日のようなラグジュアリーSUVが存在しなかった当時、初代レンジローバーは抜きん出た高級感と乗り心地のよさで、人々に衝撃を与えた。そんな「クラシックレンジ」と呼ばれる初代は、近年のネオクラシック再評価の波に乗って人気を集めている。
会社員の舟山紀之さんがプリマスブルーのクラシックレンジを手に入れたのは、2020年8月のこと。就職をきっかけに上京後、しばらくクルマには縁がなかったが、ある日代官山の旧山手通りを颯爽と走るクラシックレンジを見たときに心が動いたという。
「以前からその存在は知っていましたが、代官山で見かけたときは比較的若い人が運転していて。『旧いレンジローバー格好いいなぁ』と。いわゆる一目惚れだったんです。確か深緑だったと思います」
3年前でもすでにクラシックレンジの相場はあがり始めていたが、「まだピンからキリまで選ぶことができた最後の時期でした」と舟山さんは話す。
「大手中古車サイトで、レンジやランドローバー系を扱わないような大阪のクルマ屋さんが安く売り出してたのを見つけ、すぐに向かって決めました。自走で引き取った日に燃料漏れが発覚し、いったんお店に戻って処置をしてから東京に戻ったのも思い出ですが、初っぱなからレンジへの適性を試されたような気分でしたね(笑)」
キャンプをはじめ国内の旅をクラシックレンジで満喫する舟山さんは、納車からおおよそ3年で3万キロを乗っている。最近ではドレスダウンに興味が向きはじめ、フロントバンパーとその下にあるエプロンバンパーを本国のベースグレードと同等のものに交換。近々、ホイールも前期型につく「ロスタイルホイール」に付け替える予定だ。
そしてレンジローバーといえば、デビュー当時からV8を搭載しているのも大きな特徴(ターボディーゼルもあったがメインはV8)。このゆったりとしたトルキーなエンジンこそが、「砂漠のロールスロイス」たる走りを体現している。舟山さんの個体は3.9ℓのV8。エンジンルームを見せてもらうと、ところどころ新しいパーツに交換され、手入れが行き届いていることがうかがえる。
「オルタネーターやエアコンのコンプレッサー、ドライブベルト、ウォーターポンプなどは新しいものに交換しました。ひと通り不調も乗り越えましたが、腐食したエンジンのシリンダーブロックから冷却水が漏れたときは大変でした。大規模な修理で2ヶ月は帰ってこなかったですから。あと3.9ℓは熱害にも注意。3.5ℓモデルのほうがエンジンルーム内にこもる熱量が少ないため、消耗品のもちも良く、水温トラブルも少ないと言われています。が、こちらは中古のタマ数が圧倒的に少ないのが残念です」
専門店で各所に手を入れたことで、今は夏場の下道や高速道路でも快調そのもの。舟山さんはレンジローバーやランドローバーを長らく乗るオーナーたちとも繋がりをもつが、新車時からオイルや水回りの点検を欠かさない個体のなかには、なんと走行距離50万キロを超える個体も数台あるという。基本的には丈夫なエンジンなのだ。
クルマのある都会の生活にすっかり目覚めた舟山さんにとって、気になるクルマは他にもあるが、今はクラシックレンジを維持し続けることに余念がない。
「残念なことにメーカーが部品の供給を止めつつあるため、例えばABSの電磁ポンプの部品などはもう新品が手に入りません。するとやはり、もう一台、部品どりのために動かなくてもいいのでクラシックレンジを持っておきたいという気持ちが湧くこともあります。あとは中身がほぼ同じディスカバリー1の初期型もいいですね。それなら、頑張って動く状態で2台持ちというのもアリかもしれないです(笑)」
1995年生まれ。学生時代に乗っていたフェアレディZ(Z33)やオートバイを経て、2020年にクラシックレンジを購入。普段使いはもちろん、旅やキャンプでも楽しんでいる。