一生乗り続けたくなる「わがままなクルマ」
ジープといえばこの顔、という人も多いだろう。三菱・ジープは、かつての警察予備隊、防衛庁に卸され、民間用としても広く愛された元祖国民的4×4だ。今回ご紹介するのは、希少な4ドアモデルである「ジープ・デリバリワゴン(J36)」。見た目はクラシックカー然としているが、1982年式というから細やかなアップデートが行われている。そうした実用性の高さからしても、十分にネオクラシックと言える年ごろだ。オーナーでありスタイリストの平 健一さんは、10年前に友人からこのジープを譲り受け、その後幾度となくトラブルに見舞われたものの、修理と日常のメンテナンスを繰り返し、大切に乗り続けている。
ジープとのひょんな出会いは2012年。平さんの友人がJ36を購入したものの「あまりにも手間がかかる」という理由で、わずか10ヶ月で手放すことになったことがきっかけだった。当時、平さんは車を所有していなかったこともあり、迷わず引き取ることを決めた。その理由は、レトロなエクステリアデザインだ。
「友人が乗っている頃から、ずっと格好いいなぁと思っていました。特にオフホワイト×バーガンディの2トーンカラーが好みですね。ファッションもそうですが、とにかくデザイン重視で選ぶ性格。その結果、維持に苦労することになるのですが(笑)」
学生時代、父親から譲り受けて乗っていたBMW525iは大きなトラブルもなく、快適に乗れていた。しかしジープに乗り換えてからは一変。高速道路でアクセルワイヤーが切れ、真夏にはエアコンが効かなくなり、車庫入れ中にはコラムシフトのレバーが折れるなど、普通に考えたら手放したくなるような体験を何度もしている。にもかかわらず「事故を起こしたり、クルマの故障が原因で仕事の相手先に迷惑をかけたことは一度もない」というのは、まさに不幸中の幸いだ。
「ガソリンもエンジンオイルの消費も激しいですし、年に数回の整備点検も欠かせません。とにかく維持するのに手間とお金がかかる、わがままなクルマです(笑)。でも、新しいクルマにはない『運転している感覚』が味わえる。それが楽しいんですよ」
三菱ジープの誕生は戦後まで遡る。アメリカのウイリス・オーバーランド社がジープを軍用から民間用に転換するにあたり、現在の三菱重工が受注したという経緯による。部品をアメリカから輸入し、組み立てを日本で行うノックダウン方式で生産が始まったのが1953年。ディーゼルを搭載したJ36のデリバリワゴンは、1970年代後半にファミリー向けとしてデビュー。前に3人、後ろに3人が乗れる6人乗りで、87年まで生産された。
「当時のカタログを見て驚いたのが、後部座席のシートを倒してスノーモービルを積んでいるんです(笑)。それだけ積載量は十分にあるということ。僕は荷室部分に棚を作って2段構造にしているので、洋服やキャンプ道具を大量に積めます。仕事にもぴったりなクルマなんです」
大きなトラブルを経験し、主要なパーツはそのたびにアップデートしてきた。21年末にはパワーステアリング化の改造も行ない「乗り換えるつもりはまったく考えない」と笑う。
「でも実は、密かに2台目を探しているんです。ロシアのワズ、スズキのマイティボーイ、ベンツのSL(R107)など方向性はバラバラなんですが、気になる車種はたくさんありますよ(笑)。どれにしようかはまだ迷っているところですが、車高を上げたりフォグランプを付けるなどして、アウトドア感が強めの一台を作りたいですね」
あれこれと妄想しているときが一番楽しかったりするが、古いクルマには、一度ハマると抜け出せない沼が確実にある。
業界屈指のキャンプ好きとして知られるスタイリスト。神出鬼没のアウトドア系ポップアップ『平屋』のディレクションを務めるほか、21年には自身のブランド「TSPEC GEAR」を立ち上げる。年間キャンプ回数は100泊以上。
Text: Tadayuki Matsui