父が乗り継いだ505が忘れられなかった
数々の名車をデザインしてきたイタリアの名門・ピニンファリーナ。今でこそプジョーにピニンの面影はないが、両社は1950年代から2000年代初頭にかけて様々なモデルの開発において関係があった。そして、その多くが名車として今も語り継がれている。
今回登場するプジョー505は、奇をてらわない真っ向からの美しさで勝負した、かつてのプジョー×ピニンファリーナらしいミドルセダンの傑作だ。
プジョー505のデビューは1979年。丸みを帯びたクラシカルな先代の504と比べて、直線を基調としたボディラインが斬新だった。オーナーの岡部湧さんが乗る個体は後期型の88年式だが、BMW 3シリーズ(E30)やボルボ240といった当時のミドルセダンと比べても、そのシンプルで優美なデザインは、やはり古さを感じさせない。
そんな505も、今やすっかり市場から姿を消し、かなり珍しい存在になってしまった。岡部さんは28歳の若さで、そんな絶滅危惧種”ともいえる希少車に乗っている。
「幼少期に父が505に乗っていたんです。それも、スポーティグレードのGTiとV6を乗り継ぐほど惚れ込んでいました。家族の思い出が詰まったクルマだったので、私も最初に乗るクルマは505にしてみようと、ごく自然に思い立ったんです」。
そして2018年に、父親の友人の自動車屋が所有していたこの個体に巡り会う。60万円というリーズナブルな価格で引き継ぐことができたものの、ワケがあった。
「不動車で、公道復帰まで1年かかったんです。エンジンやミッションは調子を取り戻しましたが、今はクーラーの不調や足まわりのヘタリが出始めています。内外装もそれなりのヤレがあり、手に入らない部品もありますが……フランス車ってそれくらい“使われている感”があったほうが格好いいのかな、とも(笑)」。
隣に乗せていただくと、足まわりのゴム部品などが多少ヘタっていても、乗り心地のよさが感じられた。ネオクラなフランス車の魅力に、柔らかな乗り味を掲げる人は多い。
「足まわりは純正ですが、高速道路のコーナーでもしっかり粘ってくれますし、それほどロール(車体が傾くこと)もありません。エンジンは、プジョー、ルノー、ボルボが共同開発したV6(通称PRVエンジン)で、どちらかというと平凡な性格ですが、30年前のクルマとは思えない、しっとりとした乗り味だと思います」。
かつてのシトロエンのように独自のサスペンション機構を持たずとも、小型車からミドルセダンまで、フランス車全般がそうした柔らかな味つけであることが多い。ハイスピードでコーナーを攻めるのには向かないが、ひたひたと路面をキャッチし、ドライバーはついゆったりと走りたくなる。
岡部さん親子が、505を大切に乗り継ぎたくなる理由がわかった気がした。
1994年生まれ。初の愛車として、2018年からプジョー505を所有する。