“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は海外セレブの間でも注目を集めているオールドスニーカーについて。
ナイキのダンク ハイ。1985年製のオリジナルを手に入れて履くのはなかなか困難ですが、2008年製の「VNTG」シリーズはおすすめ。名のとおりヴィンテージ加工が施されていて、アッパーのシワやソールの日焼けがリアル。ネットにもまだちらほら出品されてます。写真の白×黒は、僕も昨年末にオークションで見つけて落札しました。
最近、オールドスニーカーが気になり始め、ネットオークションや古着店のサイトをチェックするようになりました。若い頃、40歳男子がスニーカーに興味をもち始めたジャンルは、ヴィンテージかハイテク(バッシュ)かヒップホップの3つに大別できるはず。
この中で唯一の音楽ジャンルであるヒップホップは、ハイテクとの関係が密接。最新モデルを履くことこそが富と名誉の象徴であるという考えが、ファッションに与えた影響は計り知れません。特に最近は、話題になる海外セレブといえばラッパーばかり。つまりカニエ・ウェストを取り巻くヴァージル・ アブローなどの周辺がメゾンと結びつき、モードの主役になって時代を動かしています。ここらへんは今後、あらためてもっと詳しく考察していきたいと思います。
前書きが相変わらず長くなりましたが、彼らの特別なコラボレーションがプレ値をどんどん更新していくスニーカー市場は、もはや運とお金頼みになりつつあります。二次流通が充実しているから、存在自体が稀少ではなく、所有できることが貴重である。この需要と供給に生じる“ねじれ”は、スニーカーがラグジュアリーなマインドに近いことで起きた現象です。ならば存在自体が稀少かつ寿命が短いヴィンテージこそオンリーワンでは? と思うようになりました。このジャンルは知識が必要だし、生息エリアはお金持ちの周辺とは限らないところに面白みがある。新しいトレジャーハンティングのかたちです。
実際、ラッパーたちの間でもこういった動きが出ていて、エイサップ・ロッキーが古いエア ジ ョーダン 1を履いていたり、先日画像がリー クされていたトラヴィス・スコットとナイキの最新コラボにも、ヴィンテージへの関心が表れています。誰もが欲しがるハイプなモデルをベースに「自分はほかと違う」マインドが、新しいトレンドを生みそうです。
この足元の履き古し感を新品のボトムに合わせるバランスが新鮮です。大事にしてこなかった劣化はNGですが、レザーのはげやスエ ードの毛羽立ち、キャンバスの色褪せ、ソールの日焼けが贅沢に感じられてきました。しかし「あえて」のチョイス感が出ないとファッションとして成立しません。つまり服とのコントラストが必要で、全身ヴィンテージでは表現しにくい。ボトムはシンプルな今のおしゃれを楽しみ、足元はヴィンテージ。’70年代のランニングやレトロデザインがトレンドに浮上している今、挑戦しやすいスタイルだと思います。
おすすめは、ハイカットのバッシュ。ナイキでいえばエア ジョーダン 1やダンク。アディダスも古いバッシュはシルエットもきれい。ただしポリウレタンを使っているミッドソールは加水分解が進行して履けませんが、これらは長い年月を経ての復刻も多いのでチェックしてみては? 完全なオリジナルではなく21世紀に入ってからの復刻にも、いいヴィンテージ感が出ていますよ!
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2020年6・7月合併号掲載)