2018.10.25

【教えて! 東京スニーカー氏 #24】そろそろスニーカーの生産背景も選択基準にしたいです。

エディター・小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月いち連載【教えて! 東京スニーカー氏】。第24回はクリーンなものづくりを追求するヴェジャのスニーカーについて。

【教えて! 東京スニーカー氏 #24】その画像_1
【教えて! 東京スニーカー氏 #24】その画像_2

右は往年のテニスシューズ、左はバスケットボールシューズを連想させるミニマムでクラシックなデザインで、洋服との相性を選ばない上品なルックスです。(右・各)¥16,000・(左・各)¥20,000/ヴェジャ(シードコーポレーション)



スニーカー市場は一部のモデルが話題になることで、いまだにバブル景気の真っただ中。少量のリリースをめぐり、世界中のオンラインとオフラインで過激な争奪戦が行われています。スニーカーがスニーカーではなく金のなる木になると、世の中はスポーツメーカーの社会的責任を問いがち。例えば生産国の東南アジアに対する低賃金、過酷な残業、児童労働。つまり「自分たちばかり儲けて不当に搾取している!」と、たたく人が多いわけです。



これも大企業の宿命と言わざるを得ませんが、誰にも文句を言わせないほどスニーカーをクリーンに作っているブランドが、パリのヴェジャ。数年前にドーバー ストリート マーケットで見て知りましたが、デザインもなかなかクリーン。今季から日本に本格上陸した、楽しみなブランドです。



創設者のセバスチャン・コップとフランソワ・ギラン・モリィヨンは、UOMO世代のフランス人。学生時代からサステイナブル理念に興味をもち、仕事でブラジルを訪れたことを機に金融業界からスニーカー作りに転身しました。しかし彼らが根本的に伝えたいのはスニーカーカルチャーではありません。フェアトレードとエコロジー精神による社会貢献や環境への取り組みであり、そのツールが消費の象徴であるスニーカーだったとか。



ヴェジャはブラジルの北東部で320の農家からフェアトレードでコットンを購入しています。そしてブラジルのアマゾンのみに自生する天然ゴムの木を伐採せず、樹液だけを集めてラバーを生産しています。しかもこれら原料に対する情報や対価を公式サイトでちゃんと説明しています。なんていいヤツ。



つまりわれわれがスニーカーの購入に対して支払った金額がそれ相応の価値をもっていることを教えているのです。南ブラジルの契約工場で働く労働者は、標準的な家をもち、国の平均以上の賃金と有休、残業手当も保障されているという手厚い待遇っぷり。広告費をいっさい使わないことで、それを実現しているとか。だから過剰なマーケティングであおることもせず、“わかってる人”の口コミでここまで大きくなったことにも好感がもてます。



日本ではエコとファッションの結びつきがまだまだ弱いのが現実ですが、世界ではエシカルが重要なキーワード。そうした中でものづくりの透明性で勝負しているヴェジャは、デザインも余計なことをしません。上に紹介する二つの定番モデルも見慣れたフォルムですが、そこにスニーカーの象徴であるスポーツ感が抜けており、とてもミニマム。買った瞬間より、履き続けた先に魅力がある、そんな革靴のような味わい深さすら感じます。スニーカーのチョイスって、その人のマインドを代弁すると思いませんか。消費について本気に向き合うヴェジャを選ぶ人は、きっと性格がよく、時代感がある人だと思います。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

シードコーポレーション TEL:054-238-3359

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photo:Yuichi Sugita
Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2018年12月号掲載)

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