“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、アディダスのレトロムーブメントの火付け役となった「サンバ」について。
1950年代当時のadidasの屋内用シューズは、基本的に耐久性が高くて滑りにくいガムソールが主流。サンバとの共通点でもある。最近は多色展開していて、どれも美色ばかり。僕はこのブラウン系のほか、ブラック×イエローも購入しました。ひもは白から付属のブラウンにつけ替えたので、ちょっと大人っぽく見えます。/私物
2022年から続いている、adidasのレトロムーブメントは「サンバ」人気から始まりました。ベラ・ハディッドやカイア・ガーバーといったトップモデルやメガ・インフルエンサーの着用写真がSNSでバズっていくスピードはあまりにも速く、それに伴い世界中のストックも一掃されていきました。若いウィメンズ発信の大ブームといえば、2012年頃のnew balanceのM1400ブームが記憶にありますが、今回はそれ以上の盛り上がりかと。
adidas初の男性用シューズとして発売されたこのモデルは、FIFAワールドカップがブラジルで開催された1950年にデビューしました。サッカーファンに向けてマーケティングを考えたadidasは、ブラジルの伝統的な音楽にちなんで「サンバ」と命名。見た目から陽気なムードはいっさい漂ってこないのですが、インドア用のフットボールシューズとして長い人気を博してもう70年がたちます。
なぜ今になって「サンバ」がこんなに流行ったか。これは日本のスニーカーシーンだけを見ていても解釈不能です。それもそのはず、歴史がないのです。2000年代に東京で沸いたピストブームで、サンバの細身のシルエットが原宿界隈でも注目されていましたが、僕の記憶ではそれくらい。海外では’90年代に大ヒットするも、その大きさが災いし、2000年代に入るとファッションと無縁なサラリーマン男性にまで浸透してしまい、「イナたい」シューズになったそうです。Z世代の若者にとって「サンバ」は、親の下駄箱に並んでいる古くさいシューズだったのでしょう。
しかしこの“黒歴史”が今のブームの追い風に。スーパーモデルたちが「サンバ」を履く姿は、海外の人々(特に女性)にとってダッドシューズのように映った。しかも数年前にトレンドだったダッドシューズより、細身で合わせやすく、わかりやすくレトロだというアドバンテージが受け入れられました。そしてグッチやウェールズ・ボナーとのコラボレーションによって「サンバ」のステージが上がり、モード界のイットな存在になりました。
さらに’90年代後半~2000年代のリバイバルは「ブロークコア」というトレンドを生み出しています。これは若者文化から発信された、古着のサッカーユニフォームをファッションに取り入れるスタイル。最近は街を歩いていてもユニフォームを着るおしゃれな女性が目立ちます。この流れも「サンバ」人気にひと役買っているのでしょう。
僕もそんな風潮をくみ取ってインドア系のレトロadidasをいろいろ買っています。おすすめは1979年に誕生した「ハンドボール スペツィアル」の復刻。最近はカラバリ豊富にリイシューされています。フォームはあまり変わらないのですが個人的に「サンバ」よりトウのボリュームを感じて、おっさん体型でもバランスがとりやすい。また、このハンドボール スペツィアルでも使用されていますが、adidasのピッグスキンって高級感があるんです。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa