2023.06.24

【エア ジョーダン 1】映画『AIR』を観て思うこと|教えて! 東京スニーカー氏

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、1984年のNIKEとマイケル・ジョーダンとの契約に至るまでのストーリーを描いた映画『AIR/エア』について。

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あまたあるオリジナルカラーのうちの一つ、通称“BLACK TOE”。ジョーダンがNIKEと契約してすぐに制作された数々の広告ビジュアルを飾った配色で、シカゴブルズのホームとアウェイのカラーを足して2で割ったようなパレット。NBAのコートでは着用されていないカラー。2016年に復刻されたきりで、ファンから再販が望まれている。/私物



 予告編を見てから気になっていた映画『AIR/エア』。わりと僕の周りでは盛り上がっていて、公開日直後のインスタのストーリーズはこの映画のことばかり。先日、ようやく仕事もひと息つき、観に行ってきました。1984年のNIKEとマイケル・ジョーダンとの契約に至るまでのストーリーが描かれています。そしてその交渉条件の目玉でもあったエア ジョーダン1の誕生秘話も含まれていて、スニーカー好き、NIKE好きには刺激的だったのではないでしょうか? 劇場で見逃した方は、きっとすぐにAmazon Primeで観られると思うので、ぜひどうぞ。仕事人としての熱い思いが伝わる、ビジネスマンにもおすすめの映画です。


 事実や時間軸に関しては、僕の資料や記憶とは相違が多々あり、ツッコミどころもあるのですが、あらためて思うのはスポーツメーカーが作るシューズはスポーツシューズであるということです。それをどう履きこなすかは消費者の自由で、メーカーの強制力はない。会社が歴史をもつと当然「レトロ」の割合が増えてきます。「アスリートが履くべきは最新のシューズである」論に従えば過去のシューズの活躍の場は競技からライフスタイルへと移される。その転換期に必要なのは「文化」であることを、歴史は教えてくれました。スケートや古着、モードでも何でもいい。スポーツ以外のカルチャーが転換期に結びつくと、そのシューズは過去のものとして輝き続ける。マイケル・ジョーダンが偉大なだけでは、エア ジョーダンの映画は生まれなかったはず。音楽やスケートと結びつき、輝き続けているからこそ、人はその原点に興味を抱くのではないでしょうか。


 話を映画に戻すと、このストーリーで事(ジョーダンの契約)のすごさを物語るのは、当時にして破格の契約金。この詳細に関してはメディアの情報以外に公式なアナウンスはないのですが、当時のNIKEは、金融街が動向を見つめるビッグカンパニーに成長していたものの、1984年時点での財政事情はよろしくなく、レイオフを繰り返し、株式公開以来の最低収益を記録し、アメリカでも直営店は5店舗のみとか。それを考えると、確かにジョーダンは大きな決断をしたし、NIKEも賭けに出ました。エア ジョーダンは、NIKEの起死回生プロジェクトだったのです。発売後1年で1億ドル以上を売り上げたことも驚きですが、いちばんすごいのは毎年のように新作が生まれてシリーズが拡充していったこと。NBAに入団するとき、つまり契約時は数ある優秀なプレイヤーの一人にすぎなかったジョーダンを先見の明で見いだし、ジョーダンもその期待に応えるように活躍を続けた。ジョーダンが真のアメリカンヒーローとして成長を続けたように、テクノロジーも発展して、ジョーダンは靴も人も進化した。そんな共存共栄ビジネスって夢ですよね。シューズの話は少なかったですが、NIKEのチャレンジ精神を知るよい機会だったと思います。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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