“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、1970年代から’80年代にかけて登場したアディダスのシティシリーズについて。
1970年代から’80年代にかけて登場したシティシリーズは、都市シリーズとも呼ばれ、約30のヨーロッパの都市をフィーチャー。フランクフルトは1980年代初期にリリースされたモデル。僕は3本のストラップとスリーストライプが同じくらいの太さになったバランスが、いい感じに野暮ったくて好き。ゆるっとしたパンツに合わせたい。私物
ファッション誌でスニーカー企画を担当していて難しさを感じていたのが、色や素材やフォルムなど、切り口を立ててシューズを集めて紹介することでした。いわゆるモノ系雑誌は、気になるモデルの魅力を深掘りする使命感が大きいですが、足元のトレンドを「タイプ」で決めるファッション雑誌の責任感もなかなか。「今年はスエード!」とか「白が流行ってる!」とか。その中で各メーカーの新作をバランスよく集めるわけですが、モデル自体の歴史や成り立ちがバラバラなのに、タイプでセグメントすることに違和感があったんです。そして紹介したくても企画にハマらないモデルがたくさんありました。
僕はファッション観の変化とともに、気になるスニーカーが変わりやすいタイプ。だから、単純なスニーカーの流行とは別軸で動いている感もあります。その中で久々に気になっているのが、ローテクのadidas。グッチやウェールズ・ボナーのコラボも影響してか、若い世代に注目されているよう。20代の頃、経験したピストブーム時に、自転車乗りの間でSAMBAを中心に、adidasの甲が低くてソールの薄い感覚が流行ってました。ただ自転車には似合っても、当時のファッションに合わせるのは難しかった。そんなイメージだったのですが、最近は太くて柔らかいボトムに薄いadidas、の感覚が気になってます。
1970年頃から’80年代にかけて、adidasはシティシリーズという欧州を中心とした都市名を冠して、そこから連想されるカラーをのせたモデルを作っていました。日本でも舶来物に大きな憧れがあった当時、こういうヨーロッパの都市名がついたモデルって、クールな響きだったと思います。で、最近はFRANKFURT(フランクフルト)がお気に入り。おそらく唯一のストラップ付きで、20以上はゆうにある都市シリーズの中では、マニアックで野暮ったい。去年買ったHAMBURG(ハンブルク)と共通するインドア系のソールもadidasらしくて惹かれます。現在、BILLY’S限定で5都市の復刻が相次いでリリースされていて、僕は11月に発売予定のATHEN(アテネ)を狙ってます。黒にイエローの配色、そしていま大人気のSAMBAと同じ薄いガムソールはベースのスタイリングに溶け込みつつ映えそうですし、大人になって履くよさがあります。
この手のレトロなadidasって何がいいのかと、ある夜にジロジロと眺めていたのですが、爪先だな、と。トウが先端に向かってシャープに下がっていくのに、補強のボックスの形が丸っこい。椅子とかヴィンテージ家具の世界でも、鋭さとやわらかさのコントラストって、結構、魅力ですよね。最近は円安で海外のヴィンテージもどんどん高額になっていて、今のうちに買わなきゃと気になり始めているのですが、そんな空気が都市シリーズにも流れてるのかもしれません。やっぱり、足元だけ見ていては欲しい靴はわからない。そのスタンスでこれからも頑張ります。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa