“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、40周年を迎えたナイキの名作「エアフォース1」について。
現行のAIR FORCE1に比べると、レザーに光沢があり、スウッシュや補強部分を触ってみるとプニっと肉厚な質感。新品を履くと靴擦れするって人も結構多いのですが、これは柔らかいから最初から履き心地もグッドです。爪先にかけてまっすぐ斜めに落ちているシルエット感が、クラシックな趣。上品にはきこなせそう。私物
UOMO読者にもし好きなスニーカー・NIKE編をアンケートしたら1位になる(と思い込んでいる)AIR FORCE 1は1982年に誕生しました。つまり「40歳男子」です。7月に40周年記念モデルが発売され、僕も先日購入しました。年始にローカットの白をおろすのが恒例行事になっていて、今年も今のところきれいに履いていたのですが、これはそれとは別に持っておかないと、とアンテナにピンと引っかかりました。写真ではなかなかポイントが伝わりにくいのですが、細部に目をこらすと現行のAIR FORCE 1とは大きな違いが。1990~2000年代のディテールをミックスした、いわば幕の内弁当。フォルムも当時の年代っぽく、爪先がちょっと細くシャープになっています。その時代に比べると、現行はちょっとスクエア気味で、野暮ったさを感じます。革も厚みがあるし、光沢があってよくも悪くもちょっとリッチ。スニーカー好きが求めるゴージャス感はいらないし、定番は好きだけど、みんなとかぶりたくない。そんなわがままな人にオススメです。
上の写真を見るとわかるように、本作には歯ブラシが付属しています。なぜブラシではなく歯ブラシか、ってのが僕には重要なポイント。これはブラシが「汚れを落とす」用途に対して、歯ブラシは「磨く」ものであるという、微妙な違いの表れです。前提としてヒップホップのカルチャーの間で、白スニーカーとは成功の象徴。特に’90年代は、試合のたびに新しいシューズを履いていたマイケル・ジョーダンの影響もあり、そういうマインドが強かった。1989年公開の映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』をご存じでしょうか? スパイク・リー監督作で、スニーカー好きの間では名作です。この劇中で、主人公のバギン・アウトが、歯ブラシでシューズを磨くシーンがあるのですが、これこそがインスピレーション源では?と感じています。白スニーカーは磨けよ。そんなマインドが伝わります。
初めて真っ白のAIR FORCE 1を履いたのはアメリカへの留学中でした。もちろん白ベースはいろいろありましたが、当時、真っ白は日本未発売の珍しいカラーでした。ホームステイ先の近所のフットロッカーで67ドルで見つけたときは、日本の時価の半分以下だったことに驚いたものです。ヤフオク!に出品して日銭を稼いだり、日本の友人に送ったり、これまで何足買ったかわかりません。それでも、けっして飽きることのない、不思議な魅力があるんです。以前、本国のNIKEから取材を受けたことがあり、いちばん好きなNIKEのスニーカーを尋ねられ、僕は「白いAIR FORCE 1」と答えました。理由は、ほかの誰が同じものを履いていても気にならない唯一の存在だから。スニーカー好きを自負する以上、基本的にオンリーワンではありたいのですが、このモデルだけは自分が愛情を注いで白を美しく保っていれさえすればいい。だから節目となる今年は、みんなで履いて盛り上がったらいいな、と思います。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa