“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、ロジャー・フェデラーの参画やロエベとのコラボレーションなど、注目を集めるブランド「On」について。
これはオンを代表する「Cloud 5」で、この春にリリースされた防水仕様。こういうニューカマーのブランドがヒットする法則って“オールブラック”と“防水”がキーワードだったりするんですが、オンもその要素をちゃんと満たしています。ソールが特徴的ですが、ちょっと薄いのでシックな印象です。¥17,380/オン(オン・ジャパン)
一日の摂取カロリーを少なくする引き算の要素としてしか考えていない低レベルですが、ランニングを続けてよかったのはシューズ選びで「新品であること」とか「テクノロジー」が加点になること。’90年代や2000年代のストリートカルチャーだけで価値観が形成されると、「懐かしい」とか「ローテク」が好みの基準となり、新しいデザインを受け入れにくい。シューズ観が凝り固まってくるとファッション全体の血行が悪くなって買い物にすら倦怠感を覚えてしまう。首や肩の凝りと同じですね。だからたまに凝りをほぐしてくれるシューズに出会うと、いろいろスッキリする。それが最近はオンです。
オンの誕生は2010年。スイスのブランドです。最初はソールの凸凹というか、空洞状のクラウドパーツがスマートなのか野暮ったいのか判断しにくかったのですが、ランナーの高い評判を聞いて「シリアス系の間ではイケてるんだ」と思ったのが初見時の感想。創業者のインタビューか何かで読んだ「世界中で新しいことに挑戦しようと面白いことを考えている人は、だいたいスニーカーを履いている」って言葉が響きました。以来、オンはアップルやダイソンといった業界のデザイン常識を変えてきた企業にたとえられることも。僕も足元に圏外のデザインというか、斬新さをスパイス的に取り込むことで、自分なりのファッション観を更新しているつもりです。
以来、オンは街履きを初めて意識した「Cloudnova」をドーバーストリートマーケットでお披露目するなど、ユニークな展開を仕掛ける一方で、ナイキやユニクロなどのビッグスポンサーがついているロジャー・フェデラーが投資家的な立ち位置で参画するなど、各界をザワつかせています。そして、最近いちばん驚いたのが、ロエベとの取り組みでしょうか。ジョナサン・アンダーソンが愛用していることは業界ではまあまあ有名なニュースでしたが、まさかコラボレーションに至るとは。しかも服まで。オンのインラインをベースに、色やグラフィック、マテリアルを替える程度の、ある意味控えめな感じに、アンダーソンがオンを大事にしている部分が伝わりました。
そう思っていたらいきなり直営店のオープン連絡をオンの田中さんからいただきました。アパレル界から転身した田中さんはUOMOでもモデルやスナップでお馴染み。そんな彼の深い愛情もまた、皆さんにとって価値のある情報ではないでしょうか。大きなバズが起きるときは、複数の事象が重なり合うもの。ドーバーによってコアなファッション層が注目し、フェデラーによってスポーツ界が驚き、ロエベによってモードな若い層が魅力に気づく。コアターゲットであるランナーの“外”からの流入が、オンの盛り上がりの正体であるように思います。僕もこの春から3足のオンを履いてますが、履き心地はもちろんファッションとしても新鮮。おかげでパンツが細くなったりと、変化を楽しんでいます。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa