2025.04.16
最終更新日:2025.04.16

ニューバランス「991」が支持される理由って?|教えて! 東京スニーカー氏

ニューバランス「991」

クッション素材を可視化したヴィジブルABZORB搭載モデルとして2001年に登場した「991」。スティーブ・ジョブズも愛用したことで2010年前後に話題になった。990番台では唯一のUKメイドで、現在は2代目の「991v2」がメインで不定期にリリースされている。DSM別注は、ロゴ使いなどのディテールがアシンメトリー。/私物

ニューバランス「991」が支持される理由って?

 ニューバランスはモデルが多様化、細分化して「これ」という人気集中型がなくなったように感じます。長くブランドの中核を成していた1000番台は、40代〜50代を中心としたアメカジ信奉者に愛され続けてきましたが、「2002」あたりを越えてからハイテク化が進みすぎてか、シリーズのつながりを整理することが難しくなりました。自分でも系譜をまとめるのに苦労した思い出があります。

 ちょうどそんな頃に入れ替わるように990番台が人気になりました。おそらくきっかけは2012年に発売された「990v3」。履きやすさ、進化を伝えやすかったのがこのシリーズの特徴でした。そしてグレーを主張したニューバランスらしい直球なデザインもよかったと思います。当時は世の中がクラシック回帰で、生産国にこだわった「ローテクの心地よさ」が再評価された頃。その雰囲気をもちながら「ハイテクな心地よさ」をかなえたアメリカ製の990番台が、先進的と評価されました。

 時代の流れに沿ってアップデートを繰り返す「990」シリーズですが、「992」と「993」好きはUOMO読者にも多いはず。前述したように、おそらくこの2モデルにはニューバランスに染みついたローテクの魅力を感じているんだと思います。たとえるならLightningコネクタに替わり、テザリング機能がつき、ホームボタンがあり、有線のイヤーポッズが初めて付属したiPhone5に、今になってシンパシーとノスタルジーを覚えるのに近い気も。そうした中で僕は昔から「991」派を貫いています。理由は、このシリーズ唯一のUKメイドだから。特に上から靴を見たときのシルエットが、アメリカ製のそのほかのモデルよりも流線的というかスマートなんです。ニューバランスはアダルトに履きこなしたいので、UKメイドの革靴のような雰囲気は取り入れたいところ。ちなみに2001年に初代が誕生し、1年ちょい前くらいにバージョンアップした「991v2」が登場しました。どちらも2000年前後のハイテクなムードが残っていて気に入っています。

 2025年に入って珍しくオールブラックがインラインでリリースされて気になっていたところ、ドーバー ストリート マーケット(以下DSM)別注のオールブラックが発売されました。インラインはスエードのところが、DSMの別注ではヌバック。黒がちょっと浅くてスミクロっぽいことから、上品に見えます。UOMOのウェブでも書いたことがありますが、DSMといえば“黒”ですが、その表現がとても独特でハイセンス。なんでもかんでも黒尽くしにすればいいってもんじゃない。素材の重なりの妙によって濃淡が生まれるから、モードな黒もあれば、クラシックな黒もある。とても繊細なところを突いています。

 ちなみにとても個人的な話ですが新品の「991」をいいソックスで履くと、キュッキュッと靴の中で鳴る音が好き。馴染んでくるといつの間にか鳴り止んでいるのですが、なんだか儀式みたいで、気持ちが引き締まります。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行

「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。

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