2000年代のフィットネス&ランニングシューズが人気なのは、もちろんビジュアルも大きいですが、履いていて疲れない、というのがヒットの理由かと。「530」を履いた感想は「軽い」でした。これからの時期はメッシュが少し寒そうですが、たくさん歩く日に活躍しそうです。レディスっぽく見えない着こなしの工夫が必要です。/私物
ニューバランスの欲しいデザインは?
アメカジの洗礼を受けて育った僕にとって、ニューバランスはプレステージ品番と呼ばれる1000番台、そしてできるだけ年代が古いモデルこそが正義でした。あとは「576」や「996」といった1988年生まれのUSA製コンビ。’90年代は、このあたりがヴィンテージ系のジーンズとの相性がよいとされ、またストリートカルチャーとの親和性もありました。2000年代にはヒップホップと裏原宿のカルチャーの距離感が縮まり、ニューバランスは500番台がユース世代のメインストリームとなりました。500番台は主にコンクリートより土の地面に適したオフロード仕様で、ソールのグリップ性が高く、ややボリュームのあるデザインが特徴。特にトレイル系の「580」や「574」はブランドやアーティストとのコラボレーションで話題になり、ストリート界隈におけるニューバランスの勢力図が変わっていくのをリアルに感じました。
今回紹介する「MR530」はそんな頃の大衆的なフィットネスシューズがベース。あの頃のニューバランスは、いかに洗練されていて、カルチャーを帯びているかが大事で、どこにでも売っているスポーツシューズは原宿の基準だとファッション的には圏外。今よりも販路が限られるなど、話題性が重要だったため、これが2000年代にファッションとして注目されることはありませんでした。
現代のニューバランスは、「2002」や「1906」、「860」や「1000」に見る2000年代のアスレチックデザインが主流です。デコラティブな要素が多いんですよね。つまり「物足りなさ」を感じさせてはいけないブランドになっていて、その期待に応え続けているための、アーカイブを掘り起こすセンスが求められている気がします。僕が購入したのはかなりベーシックカラーですが、メッシュの目がネットみたいに粗くて、切り替えの湾曲の度合いが鋭い2000年代特有のアスレチックデザインは、やっぱり白ベースが際立って見えると思ってました。「992」や「993」だとネイビーやブラックが人気ですが、その配色だと素材やレイヤーのうまみが消えてしまうように感じます。同じようにスポーツの優等生だったアシックスにも似た傾向がありますよね。
Instagramの投稿を見るとウィメンズからの支持がとても高い「530」ですが、それを知ってか、ミュウミュウとのコラボレーションモデルのアッパーは実はこれです。なかなか気づかなかったのは、素材が1種類、カラーがワントーンだから。みんなが好きな「530」の“濃い”要素を目立たなくしているにもかかわらず、それでも圧倒的な人気があるのは、クッションなどのテクノロジーを排除した薄いソールに理由がある気がしています。であれば、上の写真の「530」のソールをミュウミュウみたいにしたらめちゃくちゃ売れるんじゃないか、と思ってみたり。10月号のUOMOのスニーカー特集でヴィブラムにカスタムしてもらったので、またお願いしてみようかな、と。
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。