2024年の私的なベストバイを挙げると、5月に購入したNIKEとBODEのコラボレーション、アストログラバーだったかなと。薄底ブームからピックアップされたであろう’70年代のトレーニングシューズ、そしてウィメンズのコラボレーションが今のムードを象徴していました。靴ひもについたビーズなどクラフトっぽいパーツも新鮮でした。/私物
2024年のスニーカーを振り返ると?
2024年のスニーカー市場を僕なりに振り返ると、盛り上がったのか落ち着いたのか、いまいち判断しにくい一年でした。総括すると、トレンドが薄底にひっくり返り、アースカラーに染められた。そしてウィメンズのスニーカーへ関心がかなり高まったかな、と感じました。2023年の時点で既にマス化していたので、もう長く続かないだろうと思っていたadidasのレトロなトレーニング系シューズの人気が、メゾンを巻き込んで思っていた以上にウェーブしたな、とも感じました。アースカラーに関しては、特にランニング系で多く見られました。HOKA×SATISFYのトレイルランニングシューズとか、前号のこの連載でも取り上げたSalomon×PASとか、コラボレーションモデルにその傾向が出ていました。
シルエットと色がキーワードになるってことは、つまるところ服に引っ張られた一年とも言い換えることができます。ストリートが主戦場になるスニーカーカルチャーはだいぶシュリンクして、発信源がファッションになった。全体のバランス感が求められるようになったということです。しかも主張の強いダッドシューズ(厚底)のように下から存在感をつくっていくよりも、上からかぶせていくようにスニーカーを履くスタイリングが重視された。ブラウンやベージュ、カーキなどが増えたのは、秋冬のせいじゃなく、調和が大切にされたということです。革靴と近しいけれど、ちょっと異なるトレンドです。
僕はずっとファッション目線でもスニーカーを追うべきだと思っている派なので、個人的には楽しかったけど、目新しさは感じにくい一年だった。この流れを変えるには、やはりシューズとしての新しさ、時代を刷新するようなテクノロジーに期待したいです。しかしニットのアッパー以降、スニーカー業界には大きなイノベーションがない。ミニマル志向が強くなり、ハードよりもソフトウェアの時代ですから、斬新なものに心がときめきにくい世の中に、どんなインパクトを与えられるかが課題になっていくと思います。
スニーカーが熱狂的な価値を帯びたのは、スニーカーを履いて外に出る機会が減ったパンデミック期に、株式のように取引されたときでした。デジタルとの相性もよかったのでしょう。しかしノーマルな世の中に戻った今、スニーカーのアウトプットも変わりました。より手仕事というか、クラフトというか、アナログな部分がフォーカスされたり、ネイチャーとか自然な空間や光景に似合うものが増えたというか。それが視覚的なアートではなく、もっと質感とか、触れて感じる芸術的なものと結びつく。その前触れが、ファッションとの融合だったのではないでしょうか。
そんなわけで自分なりに2024年の一足を象徴するならやっぱりウィメンズの視点でデザインされたNIKEとBODEのアストログラバー。レザーやキャンバスの質感も履きたいと思えるものでした。こうした流れを汲み取りながら、2025年もスニーカーを楽しみたいです。
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。