2024.08.09
最終更新日:2024.08.09

【大人のナイキ】なぜ、NIKEのハラチフィットに惹かれるのか?|教えて! 東京スニーカー氏

NIKE ハラチフィット

SNKRSでリサーチしていたら、発売して1カ月以上たっていたPattaとのコラボがまだストックがあったのにはちょっと驚きました。全員にヒットするスニーカーなんて面白みに欠けるので、そのくらいの玄人感がちょうどいい。ペガサス40のソールはグリップに優れ、芝の上でも走りやすい。汚れることを想定して2色買いしました。/私物

なぜ、NIKEのハラチフィットに惹かれるのか?

 僕が初めて自分の意思で買ったNIKEのシューズはAIR HUARACHE(以下ハラチ)でした。1992年、中学の一学年上の先輩が履いていたハラチをちょっと拝借し、ネオプレーン素材の足にピタッと吸いつく感覚に感動したのを覚えています。部活をかけもちしていたので、陸上部ではAIR HUARACHE、バスケットボール部ではAIR FLIGHT HUARACHEを履いていました。僕にとってその頃のNIKEはクッションよりフィットのブランドというイメージ。部活の仲間とか見ていても、ちょっと変わった嗜好だったかもしれません。

 そして高校に入ってすぐ、練習やレース用ではなく、朝練やジョグ用に買ったのがAIR HUARACHE PLUS(以下ハラチプラス)。ちなみに初めてのAIR JORDANもハラチフィットの「7」と、僕のティーンエイジはなかなかのハラチ信者だったと思います。特にこのハラチプラスは、本当に何千キロ一緒に走ったか。おそらく軽く本州縦断はしていた、思い出深いシューズです。まだ日本の陸上長距離業界でNIKEというポジションが確立されていなかった頃に、靴ひもを使わずにストラップで圧を調整する仕組みはユニークで、カッコよかった。部内だけでなく、大会とか人が集まるところに行っても、かぶった記憶はありません。裏を返せばそこまで売れていたシューズではないってことになりますが…。

 そんなモデルが、アムステルダムのPattaとのコラボレーションで復刻されるという、僕にとっては信じられない珍事が起きました。一体、誰がこれまで一度も復刻されたことのないハラチプラスを推したのか、不思議でしかない。しかもありがたいことに、ソールは当時のものではなく、ペガサス40のソールをハイブリッドしています。これはクッショニングに優れたReactフォームと前後二つのズーム エアを搭載している、いわば最新のエンジン。Pattaの配色は現代的だし、センスが信頼できるので、ファッションとして普段履きもできるし、日々のランニングもできます。実際に走ってみると、最近のランニングシューズに比べて、アッパーに厚みを感じるし、通気性や安定感こそ劣るものの、30年前より随分と衰えた僕のジョグには十分。むしろその頃よりストレスがないかも。おしゃれ好きのファンランナーにはぜひおすすめしたいです。

 以前、クルマの専門家にどうして旧車の復刻ができないのかを聞いたことがありました。その答えは、安全基準が厳しくなったことと国際化、あとは環境問題を理由に、デザインの自由度が低くなっているとか。人命にかかわるクルマは素材や構造に制限が多いのでしょう。でもスニーカーはそうじゃない。昔より(ランニングの)スピードが出ない僕には、このハラチプラスのコラボレーションの考えは理想的。’90年代のアッパーをそのまま使って2020年代のソールと組み合わせることが可能なら、夢は広がります。とにかく、このセンスにはやられた。Patta、ナイスです。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行

「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。

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