2000年代初期のランニングシューズ、GT-2050™とGT-2060™を参考にしたアッパー構造と、GEL-CUMULUS™ 16のソール構造を採用。アシックスの中でもレトロとハイテクを組み合わせ、現代的なルックスを表現。随所のオフホワイト使いが服と合わせやすいです。
アシックス、人気の理由は?
スニーカー業界は過去への思いの強さがマーケットを支えている。とは各所でよく書いているけど、最近はそれもどうかな、と考えたりもします。スニーカーの復刻を楽しみにすることは、「同窓会で数十年ぶりに好きだったあの子と再会!」への過剰な期待感に近いかもしれません。復刻は常に「あの頃のまま」を求められるからメーカーも大変。オリジナルを当時作っていた人ならともかく、そうでない現代の人たちが、当時に強い思いを抱いている人たちを満足させるのは、一筋縄ではいかないことだと思います。
9月、atmos主催で行われたADIDAS CON BY ATMOSにゲストスピーカーとして招待いただき、いくつかの復刻モデルについてトークしました。会場には僕が過去に所有していた1996年製の日本製アディダスが飾られていて「こんなにクオリティ高かったっけ?」と思うくらい、現行品と並べるとスマートでシャープに見えたんです。その頃ですら革の質感に惚れ込んで「やっぱ日本製は違うなあ」なんて友人と話していたのですが、回顧バイアスに磨きがかかっているとか、当時より今のほうが目が肥えた、などいろいろな理由によりやっぱり過去は美化されるものです。
最近、アシックスの人気が著しいのはUOMO読者も体感していると思います。先日は発売されたばかりのGEL-NYC 2055を買いに原宿のアシックスに行ったら「売り切れです」とあっさり言われてびっくり。僕の想像していたにぎわいのはるか上をいってました。アシックスにユーザーが期待しているのは、完全復刻ではなく2000年代のムード。このGEL-NYC 2055も、一見何かオリジナルがあるように見えて、実は2000年代初期のさまざまなモデルがミックスされています。しかも当時ストリートで人気があったモデルではなく、ほとんどが存在を認識されていないランニングシューズでした。そもそもアシックス自体が、2000年代はオバマ元大統領が休日履いていた!みたいなニュースが話題になったくらいで、ファッションの圏外でしたから。
ただそれでもGEL-NYC 2055は当時の雰囲気だけで十分に満足できる。同窓会にたとえれば「あんな子いたっけ?」の実在しない子ですが、そもそもオリジナルがないから、現在の出来をシルエットが、色味が、素材感があの頃と違う!なんて難癖もつけられない。いい意味でファンの思い出がないから新しいイメージを打ち出せるし、今の気分でスタイリングしても違和感がない。ファッション好きや過去へのこだわりがない若者に落とし込みやすいメリットがあります。
僕自身、あの頃で止まっていることに居心地のよさは感じないし、自分的にゆっくりとスタイルを更新しているつもり。復刻って、再現性の高さだけが価値じゃない。いろんな過去の要素をミックスして、新しい発見を楽しむのもおすすめです。「昔のアシックスって、あんなよかったっけ?」なんて思いながら履くのがおすすめです。
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。