2020.10.21

おじさんが履くエア マックス 95はアリですか? 【教えて! 東京スニーカー氏 #43】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は社会現象とまで言われた“あの”人気スニーカーについて。

おじさんが履くエア マックス 95はアリの画像_1
おじさんが履くエア マックス 95はアリの画像_2

オリジナルが数年に一度のペースで復刻されて話題になっていますが、上の写真はもっとも初期を忠実に再現している2015年の復刻モデル。なんとなく、派手な色のスニーカーは大人になると敬遠しがちですが、今の流れを考えると自然に履きこなせそう。25年前らしくバギーなショーツや白デニムとかと合わせるとよさそうです。/私物



自著『東京スニーカー史』を書こうと思ったきっかけは、1995年に発売されて社会現象とまで言われたエア マックス 95が、あれだけ有名にもかかわらず、ブームまでのプロセスを暴いた記述が知る限りはなかったからでした。あのデザインを初見でかっこよく見えた人は極めて少なかったはずなのに、気づいたら多くの人の煩悩の対象となっていた。つまりいくつかの洗脳ポイントが段階的に訪れて、ゆっくりと国民を巻き込んだのです。事実、エア マックス 95のブームは’96年でした。最初の通称“イエローグラデ”の登場からブームの絶頂まで1年ものタイムラグがあります。発売前から異様に盛り上がり発売日当日にピークの状態がくるように仕組まれた近年のコラボとはまったく異質な現象です。

イエローグラデは、当時の陸上シューズとしては黒ソールが異端でした。スピード感とは別の視点でデザインされたアッパーの複雑なレイヤーとともに「これなら速く走れる」と想像することはできなかったのです。今の流行の厚底シューズは、ぱっと見で速そうに見えますよね。見た目のスピード感って、陸上シューズには大切な購入要素なんです。

あのシューズに疑いなく飛びついたのは、既にエア ジョーダンなどをコート外で着用するために追いかけていた、スニーカー慣れしていたマイノリティです。主観では’94年に発売された新作の「エア ジョーダン 9」や続々リリースされていたACGのアウトドアシューズがかなりの影響を及ぼしていたと思っています。前者はバッシュであるのにアウトドア要素が取り入れられ、白アッパーに黒ソールでした。当時ジョーダンもプチ引退中だったのでコート上で履いてません(後に復帰してウィザーズ時代に少しだけ着用)。ACGもほとんどが黒ソールで、おしゃれな若者は街で履いていました。そういった人だけが「エア マックス 95」のデザインに直感で共感し、ブーム前に定価で最初にゲットできたのです。その後はタレントが一斉に履きだし、その姿をテレビで見て「この靴がすごい」と社会的に理解した人たち。ドコモのCMで履いていた広末涼子さんを覚えている40歳男子。白シャツ&スカートの制服姿にすらりと伸びた脚、上目使いとけだるい「ル〜ルル」の歌声と、役満フルコースに誰もがmajiで恋に落ちたことでしょう。ちなみに通称“広末モデル”は爽やかで軽快な3RDカラーの白ソールでした。このあたりからスニーカー慣れしていない人にも魅力が浸透し、次第に「ナイキがかっこいい」と注目されるようになったのです。

スニーカーを履いてきた経験が蓄積されてあらためて見るイエローグラデはどうですか? 真っ白や真っ黒のシューズはもちろん服と合わせやすいですが、ダッドやアウトドア系の足元に見慣れた読者は、何よりコーディネート力も高いはず! 今こそ’90年代の思い出を懐かしみつつ、新鮮な発想でエア マックス 95をかっこよく履きこなしてみましょう。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2020年10月号掲載)

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