“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はコロナ禍のスニーカー事情について。
モデル名の由来はナイキの本社があるオレゴン州中部を流れるデシューツ川から。’90年代初期に登場したacgのプロダクトは、ナイキにゆかりのある自然や地名からのインスピレーションが多いところにも親近感が湧きます。夏に向けてカラバリがいろいろ出るみたいなので楽しみ。フィットもいいので気になる靴ずれもなさそう。/私物
このような状況下で「スニーカーはこの先どうなるの?」という質問をよくいただきます。満を持して迎えたはずの2020年は新型コロナと五輪延期によって日本のスニーカー市場を支えていた訪日客も激減し、誰もが予想しないスタートとなりました。
先の見通しはまだまだ立ちませんが、それでもマイケル・ジョーダンの全盛期を追ったNetflixのドキュメンタリー番組「ラストダンス」の話題もあってか「エア ジョーダン 1」などの新色は相変わらず発売日の数分で完売というニュースも聞きます。履くためのものでありながら、それとは違う揺るがない価値をもったスニーカーであることは間違いありません。もちろんスニーカーヘッズが好むレアモデルは足数に限りがあるもの。そのため、この売り上げがメーカーや小売店に与える数字のインパクトはそれほど大きくありませんが。
僕も自粛期間中にスニーカーを履く時間は減りましたが、近所の散歩やスーパーへ買い物に行く際に着る「ちょっとそこまで」のカジュアルウェアに似合うサンダルが欲しくなりました。そしてナイキの「エア デシューツ」が復刻するニュースを知り、発売と同時にSN KRSにアクセス。久々に気合を入れたスニーカーショッピングを楽しみました。
「エア デシューツ」のオリジナルは全天候型のacgがカテゴリ化されてすぐの1992年に発売されました。ちょうどこの年はバルセロナ五輪があり、アメリカ代表の選手たちはみな選手村の中をこのサンダルを履いて寛いでいたそう。僕が存在を知ったのは高校生になってからだったので、それ故に憧れが募り、この仕事を始めてからも古着店やオークションサイトでチェックしていましたが、いい状態のユーズドやデッドストックが見つからなかったので待ち焦がれたうれしすぎる復刻です。
「エア デシューツ」が誕生した’90年代初期は、まだグローバル化が始まっていない時代。ひと足早く環境問題に対する知識と自然保護への関心が高まったアメリカで大きなアウトドアブームが訪れました。’80年代のトレンドだったジョギングやクロストレーニングが自然と結びつき、アウトドアやレジャーがスポーツとつながったのです。そうした影響を受け、日本にもコールマンやパタゴニアが上陸し、クルマ業界はRV車が大ブームでした。働きバチの日本人が週休2日制の導入で週末の余暇を楽しむようになり、キャンプ人口が増えたのもこの頃でした。
そして働き方改革が叫ばれていた中に訪れたコロナ騒動による未曾有の不況。どこかあの頃と似ていませんか? 多くの人が今、生活に新しいスタイルを見つけ出そうとしています。その中でスニーカーも早く新しいトレンドが生まれてほしい。長い自粛期間が空気をきれいにしたと聞きます。外に出られる喜びを、自然に触れ合う楽しみをあらためて感じられるよう、「エア デシューツ」を家の近所ではなくキャンプや川で遊ぶようなアクティビティで履いて堪能したいです。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2020年8月号掲載)