“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は話題のナイキの厚底シューズについて。
最新カラーは日本の駅伝シーンをオマージュした12月発売のグリーンとオレンジのコンビだが、昨年秋に発売されたピンクはトレンドカラーでもあり、ファッショナブル。ワイドパンツとの相性はよくなさそうなので、夏のショーツスタイルに合わせたいなと。つまりもっとランニングして、シャープな脚をつくらなくては!/私物
世界陸連から話題のナイキの厚底シューズに関して、国際大会での全面的な禁止をしないという発表がありました。正月に行われた箱根駅伝の区間新記録ラッシュや、昨今の世界記録の更新に、このシューズが影響を与えすぎじゃないの?という仮説のもとに調査が進められてきたわけです。アスリートの肉体的な進歩レベルと比べて技術が先を行きすぎて、スポーツの高潔性が脅かされているという、「ナイキやりすぎ」問題について、私的見解を述べたいと思います。
これは前人未到のフルマラソン1時間台をもくろむナイキの「Breaking2」プロジェクトにおける実証実験で、ケニアのエリウド・キプチョゲ選手に着用させた「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート」に端を発します。ナイキは研究を繰り返し、高反発のズームXというフォーム素材を開発しました。
軽くて分厚いソールに内蔵したカーボンファイバーのプレートが、重心を前に傾けるとグニョンと曲がり、元に戻ろうとするときにエネルギーがリターンされ、足が前へ推進される仕組み。カーボンは別にナイキの特許でもなんでもなく、ホカ オネオネやニューバランスなども取り入れています。この靴が宇宙から突然降ってきて、履いたら記録が出た!だったら規制の話もわかるんですけどね。
この急激な記録ラッシュに首をかしげたくなる気持ちもわからないではありません。しかしフルマラソンの世界記録は、1980年代から2000年までに2分36秒、21世紀に入ってからは4分3秒も縮まっています。この推移にシューズの進歩が大きく関係していることは歴史が証明しています。
なんとなく、人は整形と化粧とすっぴん顔のどれで勝負するのが正しいのか、という議論を交わしている感覚。今までどこまでがアリで、どこまでがナシかの明確な基準がなかったのです。僕にとってこのシューズはメイク道具。つまり厚化粧の範疇なのでOKという結論を勝手に下しています。
すっぴん美人がいちばんなのは当たり前だし、ある程度素材がよくないと、化粧にも限界があるはず。それと同じ文脈で僕がこのシューズを履いたからって、速く走れるわけではないのです。とはいえ僕は興味関心レベルで履いて楽しんでいるし、普段着にも合わせています。せっかくの話題の靴ですし、何よりこのスピードを追求したフォルムは、理屈抜きでカッコいいと思うので。
’90年代は本格的なスポーツシューズを日常に取り入れたことで大きなブームが起きました。新聞やテレビに取り上げられたという意味で、この「厚底」には当時のエア マックス95に近い過熱ぶりを感じます。つまり社会現象になった数少ないスニーカー。だったらラン以外のシーンでも楽しむべきでしょう。未来に今の「厚底」が復刻され、新しい価値をもったライフスタイルシューズに生まれ変わることを期待して。まずはNike By Youで「ナイキ ズームフライ」のオールホワイトをオーダーしたので到着を楽しみにしています!
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2020年4月号掲載)