2019.10.26

ファッションで楽しめるトレック系スニーカーは?【教えて! 東京スニーカー氏 #35】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回のお題は「ファッションで楽しめるトレック系スニーカー」について。

ファッションで楽しめるトレック系スニーカの画像_1
ファッションで楽しめるトレック系スニーカの画像_2

「XT-QUEST LOW ADV」は2008年に誕生した初のトレイルランニング用モデル「XT-WINGS」のアッパーを採用。ソールはトレッキングシューズ「QUEST」のユニットを用いるなど、ブランドのアーカイブを融合させたメモリアルなデザイン。オールホワイトよりもクリーンに感じるクリーム色に惹かれて、スラックスに合わせています。



自分の身の回りやおしゃれな街を見渡すと、サロモン人気がグイグイです。しかも、スニーカー好きの人よりも服好きの人が履く傾向に。確かにプレミアがつくわけではないし、転売したって儲からない。それでも何をもってファッションとして成立しているか、確かな言葉で表現しにくい本気なデザインに魅力を感じているファッション業界人が後を絶ちません。最近ではあのラルフ・ローレン氏やコム デ ギャルソンの川久保玲氏が名誉ある授賞式で着用していたというニュースが話題になるなど、業界の巨匠たちまでもがこのブランドを認めています。



僕がサロモンに興味をもったのは、6年前のこと。フランスのアヌシー本社へ、新作のトレランシューズを取材に行きました。欧州を中心に盛り上がっていたファストハイクをサロモンのシューズで体験しよう、というのが趣旨。山岳信仰の深い日本の登山は重装備で頂をゆっくり目指してテント泊、と山に向き合うスタイルに対し、ファストハイクは週末の1日だけ使って身軽に山を楽しみ、チーズフォンデュでもさくっと食して下るアクティビティ感覚。荷物も少ないから丈夫な革のブーツを必要とせず、軽くてグリップ力の高い、防水のトレッキングシューズに皆が注目し始めたのです。



そのパイオニア的存在だったサロモンも、もともとはスキーのビンディングメーカーとして始まり、靴業界に参入したのは1992年から。何が言いたいかというと、フランスの老舗ではなく革命児ということ。僕は前から、IT業界におけるアップルのような存在と形容しています。



トレイルシューズにライトな概念を生み出しながら、いびつな山道を快適に歩くための技術をどこよりももっていること。ビブラムやコンチネンタルといった有名ソールメーカーを使わず、自社でコンタグリップソールを開発したり、立体成形のシャーシも魅力の一つであり、横の動きの安定やフィットに優れている。クリエイティブと信頼感の両方に、デザイン以上の価値を見いだす人が増えたのが、躍進の要因ではないでしょうか。



ちょうど僕が本社に行った年にパリのセレクトショップ「ザ・ブロークン・アーム」がオープン。ここでサロモンのスキー靴を普段履きしたおしゃれな女性客を見たスタッフが魅力に気づき、別注をオファーしたとか。フランス同士の結束によりファッションへのアプローチが始まり、「ハイテク」や「ボリューム」や「トリプルブラック」が注目された流れに乗った感があります。



先日、インターナショナルギャラリー ビームスで購入したお気に入りは、昨年にスタートしたファッション向けの「サロモン・アドヴァンスド」ラインの一足。トップアスリート向けに展開している「S/LAB」ラインがベースなだけにプライスもなかなかですが、本気の機能に街履きを前提としたカラーリングを融合させる大胆な発想もまた、サロモンらしい革命ではないでしょうか。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2019年11月号掲載)

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