エディター・小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月いち連載【教えて! 東京スニーカー氏】。第23回はZARAで見つけたボリュームスニーカーについて。
これらのモデル名は「厚底スニーカー」。こだわりを隠すかのような潔いネーミング、嫌いじゃありません。ただ、見た目ほど実際に宙に浮いたような感覚はないので、履きやすい。さらに軽さも魅力。日常使いにちょうどよいシンプルさとボリューム感と履き心地です。(右)¥9,250・(左)¥11,102/ザラ(ザラ・ジャパン カスタマーサービス)
先日、久しぶりにZARAのお店をのぞいたら、実に今っぽいボリュームスニーカーが目に飛び込んできました。プライスもおよそ1万円。曲線のパーツを複雑にレイヤーしたアッパーやチャンキーソールを見て「これは意外な発見!」と思いました。
自宅に戻ってウェブサイトをチェックすると、モデルの着用コーディネートも写真もしゃれていて、仕事の参考になります。ZARAはレディスのイメージが強く、自分で着たり履いたりする機会はなかったのですが、今後、マメにチェックしてみようかと思います。
ZARAの魅力は、なんといっても時流を的確にとらえたスピーディな商品開発と展開です。以前読んだ本に「作ったものを売るのがユニクロ、売れるものを作るのがZARA」という見出しがあって、なるほどと思いました。スペインにあるZARAの本社には撮影用のスタジオがたくさんあって、そこで撮影したものが数週間後には店頭に並ぶそう。そんなスピード感があるから、常に最新のトレンドを反映できるんです。
オンラインストアのページで商品を着用しているモデルたちも、メゾンのランウェイを闊歩している一流ばかり。さらにZARAには、そうそうたるキャリアを経たデザイナーが揃っているとか。ゆえに感度の高さを保証された人たちが、スニーカーもデザインしている。マーケティングよりも商品開発に力を入れているため、広告を見る機会は少ないのですが、ウェブサイトはとてもモードでクールです。
皆さんは、一年間でどのくらいスニーカーを買いますか? 今では、大手メーカーですら毎週末に新作がリリースされ、この10年でその間隔が驚くほど短くなり、ファッションと同じサイクルで考えられるようになりました。一般的にファッションの賞味期限は13週間(年間の52週を春夏秋冬の4シーズンで割ったもの)と言われています。
だからファッションに敏感な人は、最低でも4足は買っているのではないでしょうか。それが週末休みの人だったら、一足のスニーカーでおしゃれするのは単純計算で最大26日ということになります。その限られた日数をおしゃれに楽しみたいなら、世の中のトレンドを素早く察知して、かつリーズナブルに展開するZARAのスニーカーが候補に入ってもよいと思います。
もともとボリュームスニーカーは、’90年代にファッションをリアルに経験した世代によるトレンド発信で、スポーツメーカーがそれを後追いしたもの。つまり選ぶ基準がファッション目線でいいのです。
最新のシューズが新鮮でおいしい生野菜だとすれば、機能よりも見た目の美しさを重視したデザイナーたちが感性で作り出したこの手のボリューム系は、すべてを盛りつけてドレッシングも凝ったミックスサラダのようなもの。加えて最近は、引き算の美学や盛りつけの美学など、バランス感も重視されるようになりました。実際、ZARAの配色センスもかなりいいし、履いてみると、クッショニングもよくて履き心地も上々。つまり味もおいしいサラダというわけで、なかなかの満足感なのです。
Photo:Yuichi Sugita
Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2018年11月号掲載)