エディター・小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月いち連載【教えて! 東京スニーカー氏】。第21回は浴衣に合わせたくなる、和を感じるスニーカーについて。
ナイキの「キョート ミュール」(写真左)は微妙なスウッシュの位置や、オールブラック、湾曲したソールのフォルムが今っぽい。購入して15年もたってから誌面で紹介する機会に恵まれるとは思ってもみませんでした。今回の質問を作ってくれた担当編集の中野くんにプレゼントします。ぜひ、これを履いて浴衣デートしてね。/私物
スニーカーの世界にどっぷりと浸り、ハイテクやヴィンテージを買いあさっていた’90年代を振り返ると、足元ばかりを気にしすぎていて、コーディネートはきわめて王道でした。世間一般に価値の高いモデルと正解とされる服を持っていて、それを組み合わせればおしゃれ、みたいな。
しかし2000年代に入ると、年齢とともに意外性を求めるようになりました。例えばスラックスにニューバランスの1000番台や、スーツにスタンスミスを合わせたりとか。思い返せばそうなったきっかけって、環境の変化が大きい。結婚式の二次会に参加し始めたり、目上の人と会ったり。そこにスニーカーを連れていく楽しみを少しずつ覚えるようになりました。今回のお題である浴衣とスニーカーについて考えたのも、多分その頃だった気がします。
僕の中で和服とスニーカーは水と油という認識を覆したエポックが、ナイキの「キョート ミュール」。2004年に米国ペンシルベニア州のアウトレットで出会い、大人買いしました。キョートはそうです、京都です。日本未発売のウィメンズでしたが、海外はUS12まで揃っていることが多いので、メンズサイズをゲット。アッパーが着物の前合わせのように切り替えられていて驚きました。
当時のナイキはクロッグというかミュール型のトレーニング系が豊作で、こういった謎のデザインが多かったんです。ハリウッドセレブの間でヨガが広まり、日本でも女性の間で人気が爆発した頃というのも関係がありそう。20代の僕は、これに作務衣を合わせていました。
そしてもう何足買ったかわからないマイ定番「エア リフト」。ケニア人ランナーとナイキが共同開発した、爪先が区切られた足袋のような構造は、素足で走ることで驚異的な脚力を自然と身につけたケニアのランニング環境にヒントを得たとか。もう一つのイメージであるグレートリフトバレーの断層は、モデル名の由来にもなりました。ご存じの方も多いでしょうが、ブラック×グリーン×レッドの1stカラーはケニアの国旗と同じ配色。でも、そんな背景を無視すれば、このモデルも和テイスト。
この「エア リフト ブリーズ」もウィメンズですが、日本で29㎝まで展開していたので先月買い足したばかり。通気性のよいメッシュ素材が、夏にぴったり。でもリフトを履き続けていると甲の部分に楕円形の日焼けあとができるので注意。これ、スニーカーを脱ぐと40歳男子にはくっきりした焼けあとがちょっと恥ずかしいかもしれません。日焼け止めをしっかり塗りましょう。
家族ができると環境も変化します。僕の場合はまだ日焼けあとが似合う息子と、花火大会やお祭りに行ったり。夏の楽しみ方が変わったというか、昔に戻りました。仕事が忙しくなると季節の行事に向き合うことも忘れがちですが、10代、20代の頃のようにあらためて夏を満喫するのもいいかもしれません。浴衣や作務衣を着て、大人の扇子やうちわであおぎながら手ぬぐいで汗を拭く。そんな粋なスタイルに、和を感じるスニーカーを合わせたら、雪駄よりもきっとおしゃれですよ。
Photos:Yuichi Sugita
Text:Masayuki Ozawa
(2018年9月号掲載)