2019.09.27

いいホテルで履くべきスニーカーは? 【教えて! 東京スニーカー氏 #34】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回のお題は「いいホテルやレストランに履いていけるスニーカー」について。

いいホテルで履くべきスニーカーは? 【教の画像_1
いいホテルで履くべきスニーカーは? 【教の画像_2

エア フォース 1はナイキで初めてエアを搭載したバスケットボールシューズ。発売当時は本革だったこともあり、日本の販売価格はなんと2万5000円! 気軽に買えるシロモノではありませんでした。また’90年代の日本でも白×白は稀少で、並行輸入品を2万円弱も出して買う高価なスニーカーでした。そう思うと気軽に買える今は幸せです。



今月は買い物特集の中で家具のページを担当し、3軒のホテルを取材してきました。運転、インタビュー、撮影、原稿を繰り返す弾丸出張はハードでしたが名作家具に座って仕事もでき、いい経験となりました。担当編集Y﨑くんが「エモい」と太鼓判を押す糸島も白馬もそうですが、素敵なデザインホテルって宿泊料金が一年中同じところが多いので、休暇のプランにおすすめです。



ところで皆さんはちょっといいホテルやレストランに何を履いていきますか? 大切なのは自分と店とほかの客との「ふさわしい」概念が共通していること。一般的にはもちろん革靴です。でも例えばローファーの出自は牛の搾乳前の待機場(LOAF)の作業靴ともいわれており、今じゃ学生の通学靴。そしてジョン ロブがスニーカーを当たり前に作る時代、もっと自由にとらえてよい気もしています。



今回、久しぶりに新品のエア フォース 1を履いていきました。どこにでも売っている価格1万円の白×白です。よく履いていたのが20歳の頃なので、若者のスニーカーの印象が拭いきれなかったのですが、先日、昔欲しくても手に入らなかった’96年製の白×蛇スウッシュの復刻を買って以来、僕の中で再燃しました。



12年前、某雑誌でハイパーメディアクリエイターの高城剛さんにエア フォース 1をNIKE iDでカスタムする企画をお願いしたとき、「高級ホテルでもとがめられない白スニーカーが僕には必要」というコメントにすごく感化されました。原宿でマウンティングできるエア フォース 1ばかり手に入れて喜んでいた20代の僕は「ひと回り以上おしゃれなクリエイターは視点が違うな」と思ったものです。



そして1982年の誕生以来、もう1000色はゆうに超えているんじゃないかと思うバリエをチェックしていると、結局このベタな白がいちばん大人っぽいかも、と思いました。あとはこの定番が「あえての選択」であることを着こなしで伝えられるかどうか。ホテルはストリートじゃないので、コラボや限定とかいう価値は関係ない。その点でこの純白を純粋に評価できるし、個人的にこの合成皮革の白は本革よりも白の具合が好きなんです。



糸島のスリービーハウスを取材していて、機能的で美しい名作家具を受け入れるには、それ相応のエネルギーが必要だと感じました。若い頃はイームズのチェアを手に入れるだけで満足していたけど、今は部屋全体に落ち着きが欲しくてすっきりさせたくなる。特にこういう家具をどんと置くと、ほかの不要なものが目立ってしまい、自然と空間をシンプルにしようと思うのです。



そのときにエア フォース 1も同じことだと気づきました。完成されているけどミニマルではないし、切り替えステッチや爪先の通気孔が主張している。だから服から余計な要素を排除したくなり、この夏はネイビーを軸に服をシンプルにまとめてヘビロテしています。40代になって名作との向き合い方を考えるいい機会になりました。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photo&Text:Masayuki Ozawa
(2019年10月号掲載)

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