2019.07.26

【教えて! 東京スニーカー氏 #31】ものづくりの現場を見せてください。

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今月はバルカナイズド製法を得意とする老舗のものづくりの現場を見学させていただきました。

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サイドのテープの貼り方をレクチャーしてもらいました。加硫釜に入れる前のゴムはガムみたいに伸びてもろいので取り扱い注意。



福岡県久留米市にアサヒシューズという靴の会社があります。創業は明治25年、「志まや」という仕立物業に始まり、その後に足袋の事業に転換。大正12年に運動靴の製造販売が始まり、昭和6年にはこの会社からタイヤでお馴染みのブリヂストンが独立します。昭和12年に「日本ゴム株式会社」に改名。昭和39年には東京オリンピックの聖火ランナーのために4000足ものシューズを提供しました。



昭和52年には設立間もないナイキと日本国内での生産と販売に関する独占契約を締結。期間はわずかでしたが、クオリティが高いとマニアの間で有名な初期の日本製ナイキは、ここで作られていたのです。ほかにも米国製、台湾製、韓国製のナイキがありましたが、日本ゴム(現アサヒシューズ)のランニングシューズやバッシュがいちばん美しいと思います。



平成に入ると高齢者や介護に向けた快適な靴がメインになっていたのですが、平成28年に自社の歴史や技術を生かした「アサヒ」ブランドがスタート。スニーカー好きからファッション好きまで納得できる、モダンなデザインと快適な履き心地を備えています。

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最初の釣り込み作業。いきなり苦戦。アッパーのキャンバスより木型のほうが大きく感じたので、生地を伸ばしていく感覚が難しい。



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ゴムを貼るための糊づけはまるで塗り絵みたいで楽しかった。集中。



そんな明治から平成を駆け抜けたアサヒのものづくりの現場を見学させていただきました。大好きな工場取材ですが、ここが得意とするバルカナイズド製法の工程を見ることができたのは初めて。



あ、バルカナイズドとはアッパーとゴムのソールを専用の大きな釜に入れ、高温と高圧で接着させる製法のこと。と聞くと簡単そうですが国内で作れるのはこことほか数社くらい。しかも今回はその貴重な技術の手ほどきを熟練の職人さんから受け、スリッポンを作らせてもらいました!



まず用意されたアッパーを木型に巻きつけてフォルムをかたどる釣り込み作業からスタート。キャンバスをピンチでグイグイと引っ張りながら整えていくのがなかなか難しい。次に刷毛で糊を塗ったサイドに好きな色のゴム製テープを2枚巻きつけました。いくらゴムとはいえ、カーブをきれいに貼るのがなかなか難しい。

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こういった干している状態でそのまま釜に入れます。ヒールパッチも手作業で貼りつけています。



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昭和の頃にできた加硫釜をメンテナンスしながら使い続けている。天然ゴムに混ぜた硫黄が高温に熱したときに分子同士をつなげる役割をもっているとか。



そして底に糊を塗り、ソールをパコッとかぶせるように貼って完了。靴底もフラットではないので、ついずれてしまうからなかなか難しい。工程はシンプルですが、スピードと正確さが求められる技術と経験が命の仕事とあらためて実感。終わったら加硫釜という高温の大きな釜にしばらく入れゴムやソールがアッパーに接着できたら完成です。

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完成したスリッポンは細身で大人のルックス。アサヒブランドでも同じ型を展開しています。



不均一な糊づけやアッパーのゆがみなど、目をつぶりたくなる箇所はありますが、自分で作った一足にはオートメーション化された大量生産とは違う味わいと重みを感じました。元号をまたいで活躍するアサヒシューズの記録に「令和元年に東京スニーカー氏のシューズを製作」と残せるよう、これからも精進したいと思います。ちなみにこのスリッポン、ゴムのテープをカーキと黒の2色にしてミリタリー感を表現しました。われながらナイスなカラーリング。確実に売れるので、ぜひ製品化を期待します。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa
(2019年7月号掲載)

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