“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、ディオールがトレマイン・エモリーをゲストデザイナーに迎えたカプセルコレクション「ディオール ティアーズ」のスニーカーについて。
8・9月合併号巻頭連載UP!でも紹介した「ディオール ティアーズ」は、1950年代のエッセンスを落とし込みつつ、ストリート感にあふれたコレクション。シューズはY2Kを感じるファットシューレースやプラットフォームソールが特徴。ボリュームがあるのに美しく整っている。スニーカー¥165,000/ディオール(クリスチャン ディオール)
高校生の頃の話。もう30年近く前のことですが、原宿を歩いていたら怖そうなお兄さんに声をかけられ、路地裏でNIKEのダンクを売られそうになりました。今でも鮮明に覚えている白×オレンジのハイカット。提示された金額がヴィンテージ相場よりかなり安かったので「あ、これはきっと偽物なんだ」と思った記憶があります。’90年代のヴィンテージやハイテクブームをきっかけに、いろいろなフェイクスニーカーが増えました。
スニーカーの世界に限らず、投資価値の高いものに偽物はつきもの。それがネット中心の現代になって激増した。昔はお店やフリマでしか見なかったフェイクが、ネットの世界にゴロゴロと転がっている。しかも本物と同等のクオリティで。この手の内容の取材は過去に何度もしたことがあるのですが、外国人が日本でスニーカーを購入する理由は「安心が欲しいから」だそう。自分たちが思っている以上に彼らはフェイクにセンシティブ。スニーカー業界のインバウンド需要は、信頼性の高さが大きく影響しています。
話は変わりますが、先日、ディオールがトレマイン・エモリーをゲストデザイナーに迎えたカプセルコレクション「Dior Tears」のスニーカーを試着しました。ディオールのスニーカーはジョーダン1をきっかけに注目するようになったのですが、コラボ以外のスニーカーがとにかく懐かしくて新しい。スケートやアウトドアなど、ストリート育ちの僕ら世代をがっちりつかむ要素を盛り込んでいる。今回のコレクションの新作「B33」はメゾンらしい高級な重厚感とスケートのファット感がうまく融合されたフォルムが絶妙でした。そして最大の特徴はカラフルなモヘア素材の切り替え。トレマイン・エモリーは現在のシュプリームのクリエイティブ・ディレクターでもありますが、彼の背景や文化を想像させる色使いは、地味派の僕でも足元に取り入れてみたいと素直に思うデザインでした。
しかもこれ、何がすごいかって、右足のソールにNFCチップが埋め込まれていて、近距離のデバイスにつなげることができるんです。暗号化されたキーをスマホなどに入力すると、デジタル上で製造工程を知ることができる。つまり、本物であるという証明書になるんです。ブロックチェーンの技術は仮想通貨取引を支える技術として注目されていますが、まさに複雑で人間の管理が及ばないネット社会の仕組みに公明な記録を残すことができる。スニーカーの真贋トラブルを解決するだけでなく、NFTのようなアート的側面をつくり上げる新しいプラットフォームになるのではないでしょうか。
投資価値の高いスニーカーとテクノロジーのマッチングは今後ますます高くなりそう。セカンダリマーケットでは、偽物か本物かを判別する鑑定機関のクオリティが、そのショップの信用に直結していますが、鑑定自体がアナログな行為だな、と呼ばれる未来も、遠くないかもしれませんね。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa