2023.05.29
最終更新日:2024.03.08

コンバースのウエポン|レコードジャケットに学ぶこと【教えて! 東京スニーカー氏】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、スニーカーに焦点を当て、’80〜’90年代にリリースされたレコードジャケットを厳選した写真集『BRING THE KICKS BACK』について。

コンバースのウエポン|レコードジャケットの画像_1
コンバース_ウエポン_スケート仕様02

『BRING THE KICKS BACK』の中でもう一つ思い出深いのは、BIZ MARKIEが着用していたコンバースのウエポン。ジャケットがカッコよくて、大学生の頃にレコードを額装していました。写真は、ヴィンテージ風に仕上げたスケート仕様のウエポン。スニーカー¥11,000/コンバース スケートボーディング(コンバースインフォメーションセンター)



 スポーツシューズが運動靴からスニーカーというカルチャーアイコンへと発展したプロセスには、ヒップホップという音楽ジャンルの存在が絶対に切り離せません。この関係性から僕はいまだに多くの影響を受けていて、スタイリングのティップスのインスピレーションを得てきました。例えばRUN-D.M.Cとアディダスのスーパースター、LL COOL Jとエア ジョーダン1といった、ラッパーと着用モデル、つまり人と足元の関係はもちろんですが、僕がもっとも真似してきたのは“こなし”です。1980〜’90年代に活躍したラッパーたちは、グラフィティ文化から派生したヒップホップ特有の色彩感覚にあふれていて、服の色を拾った足元選び、またはその逆がとても上手。さらにソックスの合わせ方、たるませ方、靴ひものゆるめ方といった力の抜け具合というべき、彼らの生きてきた環境に培われたセンス(狙ってるのもあるが)をどう自分のスタイルに無意識風に取り込むか。その感覚は揺るぎないファッションの基礎として残り続けています。


 で、その教科書といえばレコードジャケットかPV。大学生の頃に宇田川町にあったCISCOや渋谷界隈の並行輸入店でアメリカのMTVをダビングしたビデオテープを友人と買い合い、貸し借りしていたのも懐かしい思い出。留学中は地の利でとにかくVHSに撮りためていました。そんな青春が甦るような写真集が、先日発売されました。原宿にあるKICKS LAB.の企画による『BRING THE KICKS BACK』。これはスニーカーに焦点を当て、’80〜’90年代にリリースされたレコードジャケットを厳選した写真集。おっかなびっくりで通っていた’90 年代の渋谷を牽引した名店、スティルディギンにいたDJ VIBLAMさんが監修した123枚は、名盤から知る人ぞ知るレア盤まで幅広く収められていて、いろいろな発見を楽しめます。今見ると、エア ジョーダン2を履くHeavy D & The Boyzの色使いやソックス選びは最高だし、エア フォース1 ハイのストラップを後ろにあしらうRakimの着こなしは真似すべきかっこよさ。ちなみにEric B.&Rakimの『PAID IN FULL』の曲とPVの編集センスは最高です。今でも定期的に見返すようにして、加齢でゆるんだ感性に刺激を入れるようにしています。


 僕も今年でもう45歳。いろんなバランスを考えすぎて服がどんどんシンプルになり、「頑張ってるね」と思われないおしゃれを模索するようになって随分とたちました。しかし、こういうバイブルをあらためて眺めていると、若き日のファッション欲が沸々と甦ります。手に入れられる人が限られるハイヒートなスニーカーを尊ぶ文化は、今も昔も同じこと。大切なのは、手に入れたその靴をどうカッコよく履きこなすか。スタイリングをアンチエイジングしたい人は、自分が通ってきた過去の体験を辿るのがいちばん。僕は『BRING THE KICKS BACK』をファッションの参考書にして、新しいインスピレーションを得たいです。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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