“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、小澤氏がリペアして楽しむヴィンテージの「スタンスミス」の話から。
いま販売中のスタンスミス 80S(上写真)。’80年代のプロポーションは爪先が三角形みたいに薄くとがっていて、横から見たヒールがカーブしていて、上から見たときの履き口が細長い楕円形になっている。なんか表現が幼いように聞こえますが、ようは美しいってこと! スニーカー¥22,000/アディダス オリジナルス(アディダスお客様窓口)
過去にこの連載でも書いたのですが、新品を自分でヴィンテージっぽく加工するセルフリメイクが、ここ数年スニーカー好きの中で流行ってます。僕も何足かトライしてみましたが、別に美術が苦手でも十分楽しめるところに、間口の広さ、可能性を感じていました。そしてそのトレンドの源流がどこにあるかを考えたとき、最終的に一点もののヴィンテージにたどり着きます。同じものが二つとして存在しない一点ものをファッションに取り入れる、マニアック&ラグジュアリー志向による高次元な合わせ技ゆえ、変に大きなトレンドにならなそうなところもいい。
そんなこんなで、最近は古いシューズの「再生」を楽しんでいます。フランス製のスタンスミスを昔から集めていて、’70年代のアディダスのネックは加水分解こそないのですが、アッパーの劣化。特にシュータンとライニング、そして踵部分のバックステーの硬化によるヒビ割れがおきます。放っておくと結構な“凶器”になり、履いてしまうと足を本気で切り裂くので注意が必要です。そこで何度かお世話になっているシューリペアのLIMEさんにスタンスミスの補修をお願いしました。代わりにあてがう素材には松竹梅があるものですが、僕のオーダーは「履ける状態にしてほしい」。結果、ライニングはあえて柔らかい本革にしてもらい、バックステーの裂けをふさいでもらいました。
こればかりは素人にはできないプロの仕事。細部まで本当に美しい。正直なところ、このシューズの価値がわかるぶん、これを普段履きするのは気後れするのですが、かといって飾っていてもしょうがない。ヴィンテージの椅子やソファも同じこと。使わないとそのよさが体感できないし、その経験を言葉にできることに意味があると思うので、頑張って履きます。きっと後世に誕生するであろう、スニーカー博物館にドネーションしてくれるコレクターは、ほかにたくさんいますから。
スタンスミスに限らず、ヴィンテージの魅力をひと言で表せばプロポーションに尽きます。スタンスミスもご多分に漏れず、特に1970~’80年代に作られたフランス製のものは爪先の作り、バックステーのラウンドする角度の細さに芸術性を感じます。で、こういった薄くて細いシルエットを、ゆったりめのニットやボトムに合わせるのが好き。通年履けるスタンスミスですが、僕のおすすめは冬から春。つまり服にボリュームがあるときに映えるモデル。これはオールドアディダス全般に通じること。鰆にキャンパスとサンバは3月の旬と言えるかもしれません。で、チェックしてたらなんと現行品で「スタンスミス 80S」が発売されているではありませんか!! そうと知らずに、人が履いている足元を見て「ヴィンテージですか?」と尋ねたことも。これは買わずにいられなかった。結局こうして増えていくのが、スニーカー好きの悩み。3月は新旧をローテーションで履いてみます。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa