“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、ヴィンテージ加工が施された「ナイキ ジョーダン1 Chicago」について。
オリジナルの雰囲気に近い、「OG」をモデル名に冠した歴代のジョーダンIと今回のChicago(上)を見比べると、今作はスウッシュが5㎜ほど大きく(長く)て、この微差が見た目の印象を決定づけています。履き口の内側のマテリアルや厚みも、今作のほうがよりオリジナルに近い。欲を言えば爪先が地面にペタッとついていると最高です。私物
僕がバスケットボールを始めた1990年はちょうどVが発売された頃。当時エア ジョーダンIという存在は、ファッション誌か『SLAM DUNK』で見るだけの縁遠いシューズという認識で、初めて現物を見たのは’94年、今はなき原宿のトマホークチョップだったはず。ここに行くとBred(黒×赤)とRoyal(黒×青)がいつも置いてあって、指をくわえて眺めていたものです。ジョーダンの中で唯一スウッシュのあるIには、とてもNIKEらしさを感じていました。今思うと、オリジナル(1985年)からほんの10年ほど経年劣化したものにすぎなかったのですが、何やらヴィンテージの世界観を象徴している気がして、神々しさすら感じていました。ヤレつつもシューレースがキュッとして、爪先が細くなっているあの感じがたまらなかったのです。
11月末に発売された写真の通称Chicago(白×赤×黒)は、最初からヴィンテージ加工が施されていて、古着店に通い詰めた30年前の青春時代を思い出しました。特にシュータンの褪せ感や履き口のひび割れ具合は、かなり絶妙です。そしてこのモデルは、小さな家族経営のショップのセール品として格安で売られた’85年のオリジナルが、ずっと開封されずに眠っていて、数十年後にデッドストックで見つかったという架空のストーリー。当時の購入履歴を示すレシートが同封されていたり、セール価格のシールが貼ってあったりと、マニア心をくすぐる要素がたくさんです。
僕も最近は新品よりもデッドストック、特に10年ちょい前に買った未使用のものを積極的に履いています。たかだか10年前に発売されたシューズをヴィンテージとは呼びませんが、履かずにとっていても加水分解で寿命を迎えるだけだし、雰囲気もいいあんばいにヤレてきて服に合わせやすかったりする。例えば熟成されたワインだって、飲み頃のピークを見誤れば、いくら寝かせてもおいしくありません。スニーカーも同じように、見た目や市場価値、いろんな要素を合わせて「履き頃」のピークがあると思うし、それを考えている人はおしゃれだと思います。ちなみにそのピークはリセール価格が最高値のタイミングではないというのが持論。ウン十万もするシューズをドヤ顔で履いたって、かっこいいとは思えませんし、あまのじゃくすぎるのもちょっと違う。この微妙なバランスがセンスの見せどころだと思っています。
’94年にChicagoカラーが初めて復刻されたとき、どんなにジョーダンIが欲しくても手を出しませんでした。いかにも新品すぎるルックスが、当時の古着のトレンドと合致していなかったんだと思います。でも、今作のジョーダンIは、新品にしてオリジナルの神々しさを備えていて、買ってすぐが「履き頃」という最高のモデル。僕にとってヴィンテージ加工とは、部屋に飾ったときの「佇まいの美」ではなく、実際に履いておしゃれ偏差値を高めるオプションだと思っているので、これからガンガン履いていきます。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa