2022.11.14

「オートリー」にみるスニーカーのリブランディング、成功例【教えて! 東京スニーカー氏】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、レトロな雰囲気は残しつつも高品質&高級感を打ち出すブランドとして再出発した「オートリー」について。

「オートリー」にみるスニーカーのリブランの画像_1
「オートリー」にみるスニーカーのリブランの画像_2

リブランディングの主役は、1985年に誕生したコートシューズ、MEDALISTの現代解釈版。うまく言えませんが、薄いのに重厚なんですよ。足にフィットするレザーの薄さに対して、ソールがしっかり支えている感じが好き。で、’80年代のテニスシューズらしく、ライニングがパイル素材であるのも抜け感があって好印象です。私物



 オートリーというブランドが、今年の春夏から日本に上陸しました。サイドに星条旗のマークがあるように、もともとはアメリカのブランド。誕生は1982年ですが、’90年代に人知れず休止あるいは消滅していた状態で、2019年にヨーロッパで復活。スポーツメーカーのシューズとはまるで路線が異なり、レトロな雰囲気は残しつつも高品質&高級感を打ち出すブランドとして再出発しました。



 2年弱前にInstagramでブランドの存在を知って以来、ちょいちょいチェックしていたのですが、本格的に日本でも展開されるということで、取り扱いのあるバーニーズ ニューヨークで現物を見せてもらいました。なるほど、これは大人顔だなと。ゴートレザーの柔らかさ、日焼けしたようなソールの黄ばみ、そして足を入れたときの、なんか重心がちゃんと下にあるずっしりとした感覚。これは軽量性やパフォーマンス力をウリにしていないメゾンの「ファッションとしてのスニーカー」と似ています。服好きからの注目を集めそうなポイントも、いくつかありました。



 それもそのはず、この復活劇はイタリアの投資ファンドの資本で成り立っており、チェアマンには長らくグッチやボッテガ・ヴェネタに携わってきたパトリツィオ・ディ・マルコが就任してます。しかも御大、どうやら最近のゴールデングースの躍進も担っていたようです。この成功例を踏襲するなら、きっとセレクトショップや百貨店などに力を入れて流通させていくでしょう。



 ’80年代って、成功したブランドをお手本にしたブランドが、雨後の筍のように増えました。ちょっと露骨だなと思うくらい真似していても、好景気ゆえに需要があったから売れたんでしょう。それはスポーツメーカーに限らずファッション全般にも言えること。そして結果としてそのほとんどが淘汰されてしまった。オートリーもその一つだったと思います。実際、’80年代の広告などを調べてみると、商品ラインナップが当時全米でシェアナンバーワンだったリーボックに近い。もちろん写真のモデル「MEDALIST」を見てすぐにピンときた人もいるでしょう。当時の文書を読むと、履き心地を高めるテクノロジーの特許を取得していたりと、いろいろ頑張ってました。主にテニスやエアロビ向けの資料を参照したのですが、メンズよりもウィメンズ市場に強かったのかな、と推測。だからこそ、長続きするのは難しかったのかもしれません。



 ただ復活させるのではなく、イタリアの血を注入してラグジュアリーに転換できるか、その可能性をオートリーに感じたのでしょう。今後、多々あるリバイバル系ブランドに埋もれずに価値を高め続けられるでしょうか。いま、時代のキーワードは「レス」、つまりジェンダーレスやタイムレスであることが大事。プライスレンジは別として、若い世代に評価されるかが、気になるところ。そのためには「大人すぎない」ことも重要かもしれません。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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