“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、初代モデルの誕生から35周年を迎えたナイキの「エア マックス」について。
上は新作の「エア マックス テラスケープ 90」。ベースはもちろんエア マックス90で、リサイクル素材を使ったソールや、自然や大地を連想させるアウトドアな要素をミックス。まさに今のトレンドや気分を盛り込んだ万能なデザインといえます。歴代モデルを全部足して割ったら、どんなエア マックスができるのか、興味あります。私物
4年前にもこの連載に書きましたが、3月26日はNIKEのエア マックス デー。今年は、初代エア マックスが35歳を迎えました。同い年ってUOMO読者も多いんじゃないでしょうか? 1987年といえば、バブル景気の始まりを自分でも子どもながらに感じた年。リモコン付きのテレビがリビングに導入され、扇風機のタイマーがゼンマイからボタンになり、ショルダーバッグのように大きいけど持ち歩ける電話を父は手に入れていました。そして閉鎖される直前の後楽園球場に巨人戦を観に行きました。翌日の読売新聞のスポーツ欄の見出しが「サンチェのロングリリーフ」だったのをおぼろげに覚えています。こんな昔のスニーカーが色や素材を替えながら発売され続けていて、今も僕らを魅了しているという事実は、なかなか感慨深いこと。しかも毎年のように新作が発売されて、どれもがキャラクターをもっている。この面白さを今の若い世代に伝えるために、NIKEのアプリコンテンツに出演させてもらいました。俳優の佐藤隆太さんと一緒に、Z世代のインフルエンサーたちとトークする企画です。一日がかりの撮影でしたが、世代を超えたトークは発見の連続でした。
テレビが大きく薄くなり、データがそこに保存され、扇風機は羽根がなくなり、携帯がカメラやパソコンの代わりになったように、ソールからのぞくAIRの面積はどんどん大きくなり、NIKEのさまざまなテクノロジーがミックスされていく。その過程を見続けてきた僕にとって、エア マックスは「AIR」の進化を伝える、35年にわたる一大ストーリーだと刷り込まれていました。だから初代にはオリジンの尊さがあるし、エア マックス95には衝撃の思い出があり、最新モデルには革新を感じとることができる。その楽しさを世代を超えて共有するためにできることは?と考えられたのがこの企画でした。事実、若い世代はこうしたストーリーが完結してからエア マックスに出会っているから、僕が抱いたような感覚は共有しづらい。それをあらためて知ることができたのは、異なる世代という二つの視点を僕の“編集”という3つ目の視点で俯瞰したから。ほぼ日の糸井重里さんはご自身のコラムで、そうした面白さを「三面図」とたとえていたけど、確かにスニーカーにたとえるなら、平面、正面、側面すべてから物事を見ないといけない。僕だけの投影面だけでは、正しい形状を把握できないですね。
写真の「エア マックス90」をそうした三面図で見て、もっと好きになりました。僕には世界陸上東京大会の思い出や、TPUパーツの採用などがこのシューズの魅力でしたが、20代にとってはこれこそ最も象徴的なエア マックスだそう。つまりスウッシュの存在感があって、程よくボリューミー、色の切り替えが楽しめる“究極のバランス”だから。スニーカーで足元を外したいけど、外れたくはない。そんなファッションにこのモデルがいいそうです。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa