“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はスニーカーのトレンドについて。
世の中の話題にのぼらない“個”も大切に。ということでアディダス スケートボーディングの「プイグ」を最近購入しました。パレス スケートボーディングのメンバーでもあるルーカス・プイグは、フランス人のライダー。UOMO2022年1月号ではスケート特集も担当したし、今は息子のサッカーに夢中なので、このデザインが気になっています。私物
先日、下北沢の本屋B&Bでトークイベントがありました。今回のお題は「スニーカーと音楽は世界をどう変えたのか」。お相手は11月17日に『平成のヒット曲』を上梓された音楽ジャーナリストの柴那典さん。僕は自分の書籍を書いているときから、柴さんの著作『ヒットの崩壊』を読んでいて、日本のスニーカー史と音楽史(特にJ-POP)は社会との関連性が非常によく似ていると、勝手に親近感を覚えていました。何より僕と柴さんの著作は、時代というキーワードを核に話を進めている部分で共通しています。だから、ヒット曲と人気モデルがなぜあのとき生まれたのか、が異ジャンルなのに同じように腑に落ちるのが面白かった。そして僕と同じようにエア マックス95を手に入れ、裏原宿に青春を捧げた博報堂ケトルの皆川壮一郎さんが場を仕切り、2時間があっという間に過ぎました。
スニーカーと音楽との最たる共通項は「売れる=ヒット」の図式が崩壊していること。それこそ’90年代の音楽はオリコンのチャートがすべてで、スニーカーは着用率が人気の指標でした。しかし2010年代は、一部のアイドルグループが年間チャートの上位を独占しているわりには、その曲をみんなが歌えるわけではなく、カラオケの人気ソングは別にある、といったセパレート現象が起きています。これは音楽よりも人気や話題性が商品となっていて「CDを買う」と「音楽を買う」との距離が広がったということ。これ、スニーカーにも当てはまりませんか? ネットの中で数値化されたプレ値が、リアルな街の着用率とリンクしない。アディダスのイージーブーストの人気以降、その傾向は顕著です。みんなが欲しいエア ジョーダン1やダンクとの接点はネットの画面ばかりで、現物を見かけない。かつては誰よりも早く新作を履きたかったのに、結局定番のニューバランスの900番台に落ち着く理由は、年齢だけではないはず。
イベントは、お互いに共通する7つの仮説を立て、それらを検証し合うようにトークが進みました。’90年代の大ブームの絶頂期が同じであること。その崩壊後にくる本質を見いだしたスタンダード曲の到来とか、雑誌や音楽番組の影響力がトーンダウンする2000年代後半とかの話がとても面白かった。人気モデルのバリエーションを大量生産するゴリ押しビジネスの未来は、ちょっと閉塞感に包まれています。SNSは世界規模の共感を生み出すより、各地で点在する小さなムーブメントに価値をもたらすのではないでしょうか。マスメディアと結びついて国民を巻き込んだ、宇多田ヒカルの1stアルバムやサザンの「TSUNAMI」、そしてエア マックス95ほどの社会現象はもう起きないでしょう。それはそれで寂しいですが、今はもっと個に着目し、自分の好きなものをかっこよく履くことが大事な時代。それがいかにアートやカルチャーと結びつき、大きな魅力をつくれるかが、スニーカーと音楽の未来に共通していると思います。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa