“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はスニーカーのヴィンテージ加工について。
すぐに加水分解するためヴィンテージを楽しめる期間があまりに短いマニア泣かせのエア ジョーダン2の復刻を、わがまま言ってカスタムしていただきました。ソールの色味、黒い部分の削れ具合など一つ一つのあんばいがめちゃくちゃいいんですよね。新品よりも上品かつ高級に見えてしまうのは時代が理由なだけではないはず。私物
10月号でヴィンテージについて書いてから、自分の中で熱がさらに高まり、インスタグラムで見て気になっていたMAKOTO HORIさんに会いに行きました。HORIさんは、Off-White GINZA SIXのオープン記念でスニーカーのイベントを開催するなど、今最も注目されるカスタマイザー。ヴィンテージ加工を仕事にしたり、芸術的アプローチの一つとしているアーティストが増えている中、HORIさんは、群を抜いて(僕の中で)うまいんです。この「うまい」って、要はあんばいのこと。何でもそうですが「どこまでやるか」のバランスってすごく大事。飾り物を作るなら孤高のアートに振っていいけど、僕が目指しているのは履くためのヴィンテージ。ファッションは足し算より引き算のほうが難しいと思っているので、HORIさんの盛りながら引き際を考えるあんばいに共感していました。
それもそのはず、HORIさんはアパレル会社でも働いていて、ご自身もとてもおしゃれ。取材日もステューシーのTシャツにオーバーサイズのダブルジャケットをさらりと着こなす、かなりの玄人でした。聞けばカスタムへの情熱も服からだそうで、レディメイドのデザイナー、細川雄太さんが海外のマルチビジュアルアーティストと始めた、セント マイケルのヴィンテージ加工に衝撃を受けたのがきっかけとか。見様見真似でパーカとかをいじるうちに、足元まで熱が及んだようです。最初は出来映えに納得がいかず無駄にしたスニーカーも多かったようですが、徐々に表現の引き出しが増え、理想に近づくことで楽しくなったとか。上手になるコツは、加工対象のモデルのオリジナルやデッドストックを調べてイメージを膨らませること。なるほど、でたらめにカスタムするより、完成形を頭にちゃんと描くのは大事ですね。ちなみにもしトライするなら、そもそもオールドものが存在するクラシックモデルから。そこで腕試しをしてヴィンテージ加工の正解を見いだせたら、最新モデルなどに挑戦するといいかと思います。Foxtrot Uniformのシューレース、日焼け感を出すステイナー、そしてアンジェラスというブランドのペイント溶剤の3つがあれば、初心者は十分だそう。
「限定やコラボレーションが頻出し、セカンドマーケットが充実する昨今のスニーカー事情は、稀少性自体の概念が変わってきている感じがしています。お金を出せば買えるものから、そうでない一点ものに価値がシフトしている」とHORIさんは言いました。履き続けようが、手を加えようが、その靴に偽りなく介入していればそのスニーカーは自分だけのものになる。そもそもファッションとは自分を表現するツールであり、大人になると社会性をどう結びつけて表現するかが大事。今はアメカジがトレンド。足元がいい感じにヴィンテージだとこなれ感が出るので、ファッション視点でカスタムを始めてはどうでしょうか? そのあんばいは@horima_coをご参考に。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa