“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はアグの厚底スニーカーについて。
「CA805」のソールの厚さはなんと5.7㎝! つまり170㎝の人が履いたら脚だけ長くなって176㎝になるという脚長効果は、スタイル補正したい大人にはうれしすぎるスペック。しかも光沢のない黒のヌバックは落ち着いた印象を与えてくれる。ショーツに合わせてもグッドバランス。スニーカー¥22,000/アグ(デッカーズジャパン)
原宿を徘徊していると、UGGのスニーカーを履く女性がすごく増えたように感じます。僕たちの世代にとってUGGと聞いて思い浮かぶのは、シープスキンブーツでしょう。2000年代初頭、インターネットの普及によって海外の情報がどんどん入ってくるようになり(今ほどスピーディではないけれど)、これまで銀幕の中かレッドカーペットの上でしか見られなかったハリウッドセレブの日常が垣間見えるようになりました。その着用率ナンバーワンアイテムがあのモコモコのブーツだったのです。その頃のメンズのトレンドはティンバーランド。これもまた海外のヒップホップ文化がメジャーになり、その象徴がイエローヌバックの6インチブーツでした。あの頃は足元が茶色いカップルが随分と多かった記憶があります。もう20年近く前の話ですね。
冬用ブーツのイメージが強かったUGGに、春夏のスニーカーが広まり始めたのが2年前。本社があるカリフォルニア州サンタバーバラの市外局番「805」をモデル名に冠したスニーカーが登場しました。僕もステレオタイプに取り憑かれていた一人でしたが、今では若い女性と同じく「UGG=スニーカーブランド」に脳が上書きされています。まず「CA805」はアッパーとソールの高さのバランスがきれいで、厚底なのに不格好じゃない。見た目がガチャガチャしていると若さが前面に出てしまうのですが、ボリューム感があっても整っているシューズは大人でも若づくりせずに履きこなせます。これはBONDIとかCLIFTONなどにみるホカオネオネ全般のフォルムに言えるし、UOMOでもよく紹介されたA.P.C.のTeenageやSpencerにも同じことが言えました。
そして特筆すべきはソールのテクノロジー。UGGは2015年にTreadlite by UGG™という軽くて耐久性があり、かつグリップ力に優れたアウトソールを開発しました。底に重いラバーを貼る必要がないため、見た目のわりに驚くほど軽い。ここも女性に人気の理由の一つだと思います。ミッドソールもとにかくフワフワしていて疲れ知らず。この心地よい浮遊感は、ホカの足入れの感覚が好きな人は絶対虜になりますよ。
UGGはスポーツメーカーではなく、あくまで軸足はファッション。昨年、プレーントウの革靴のアッパーをアグソールに組み合わせたN.ハリウッドとのコラボは秀逸だったし、今季はかつて米ヴォーグ誌でクリエイティブ・ディレクターを務め、ドキュメンタリー映画にもなった編集者&作家のアンドレ・レオン・タリーがキャンペーンモデルに起用されるなど、大人が選ぶに重要な知的な一面をのぞかせている。しかも訴求できる機能をもっているから、表面的なスニーカーでないところがいい。何より若い女性と大人の男性に好まれるって、非常においしいポジションだと思いません? そんなわけで僕にとってUGGは春夏でも大活躍。今季ものでは新色の黒いヌバックが大人っぽくてオススメです。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa