“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はファッションとしてのアシックスについて。
アンダーソンベルは、北欧的なミニマリズム、エッジィなモード、東京のストリートが融合したものづくりが特徴。「ゲル1090」は靴のシェイプやディテールがほかのモデルよりも際立つところに魅力を感じたそう。アッパーを囲うヒモはクラシックな登山靴からインスパイアされている。¥13,000/アシックス(atmos 千駄ヶ谷)
アシックスは駅伝部に所属していた僕にとって青春の一足。初めて買ったのは13歳。スポーツ用品店のセール棚にあった、モデル不明の型落ちランニングシューズでした。その後、自分なりの競技力向上に伴い、どんどん最新モデルを選ぶようになりました。ハチマキ巻いてランニングパンツはいて、素足にアシックスの「ソーティジャパン」が学生長距離競技界では誰もが憧れるストイックなスタイルだったのです。
そんな時代を経験したことで、アシックスはファッションと縁遠い存在という固定観念に縛られ続けていました。おそらくUOMO読者の95%はそうだと思います。しかし2010年代のスニーカーブームで方向転換。ブラックボックスだったアーカイブに価値を見いだし、復刻を手がけるようになりました。’90年代に藤原ヒロシさんが近所のダイエーで見つけた「ゲルマイ」を雑誌で紹介していたり、KITHのロニー・ファイグが日本未発売だった「ゲルライトⅢ」の大ファンだったり、数々のエピソードでにぎわせましたが、僕の中でアシックスの価値を決定的に変えたのは、キコ・コスタディノフとのコラボレーションです。僕よりも一回り以上も下の世代のデザイナーですが、学生時代にステューシーを公式にリメイクし、後にマッキントッシュとコラボレーションするなど活躍の幅が興味深い。デザインの目的はパフォーマンスよりファッションと断言する彼もまた、子どもの頃からアシックス好きなのです。キコはいち早くホカ オネオネをモード界に取り入れるなど、日本人が「ハズシ」を「クール」と考える感覚を無意識に取り入れていました。とあるインタビューで「自分の好きな服と組み合わせられて、衝突できる服をデザインしたい」と答えていたのが印象的でした。アシックスって、まさにその最たる存在なんだと思います。
欧州で注目されている韓国のブランド、アンダーソンベルとの最新のコラボレーションは、キコがアシックスに抱いているファッション的な好奇心をうまくトレースしたデザインでした。2003年モデルの「ゲル1090」をベースに選んだ理由をデザイナーは「シンプルだから」と言っていましたが、その意味は「アシックスらしさの基準」なんだと思います。最近のアシックスで気になるモデルの多くはこの2000年代初期をマッシュアップしています。ただ、その頃にアシックスを扱うスニーカーショップは少なくとも日本にはなかったから、前時代的なデザインでも懐古主義に見えないし、今のスタイルと化学反応を起こしやすい。僕がアシックスに求めるのは、とにかく大人の新しいファッションです。
ベースの「ゲル1090」はさすが元体育会系シューズな履き心地。宇宙船をイメージしたというメタリックカラーはちょっとIT感もあります。この1年で増えた「走らないアシックス」はまさにUOMOでいう文化系スニーカー。つまり人気のハイテク素材のセットアップと着地点が同じなので当然似合うわけです。
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa