汎用性抜群の黒スニーカーは何足持っていても損はない。UOMOでもお馴染みのエディター、小澤匡行さんが注目するこの春の新作アイテムなら、周りと大きく差をつけられるはずだ。
01:Reebok|INSTAPUMP FURY MULE
フィット感を調整できる名品のミュール
「90年代のハイテクスニーカーの名品、インスタポンプフューリーのミュールです。ほかのスポーツブランドからもミュールが出ていますが、これが目を引いたのはプロマロフトのカバーが付いている点。インスタポンプフューリーは軽量化のためにアッパーをくり抜いているので、冬に履くのには正直、寒くて向いていません。でもこのミュール版はプリマロフトカバーが付いていてあたたかいんです。
それともうひとつ。PUMP SYSTEM を搭載しているから、ミュールなのにアッパーのフィット感が調整できる点も出色です。通常のミュールは踵がカパカパと空いてしまうのが個人的にストレスなので、こういうデザインこそアッパーのフィット感が大事です。
一見、インスタポンプフューリーとわからない甲殻類のようなデザインですが、これもハイブランドのシューズを彷彿とさせて、僕的にはイヤじゃない。アッパーのロゴ刺繍もブラックで目立たず、ほぼブラックのワントーンだから使いやすいと思います。何年かしたら『あれ、よかったね』と隠れ名品的な存在になりそうなムードを感じています」(小澤)
02:suncore|SP-trainer DPX
スポーツ文脈でつくられたファッションシューズ
「SNSで見て気になったサンコアは、UOMO世代のデザインチームが立ち上げた日本のシューズブランドです。ファッション文脈のラグジュアリーなムードと、おそらくストリートカルチャーも通ってきたであろうという、つくり手のバランス感がMIXされたデザインが目を引きました。
SP-トレーナー DPXは、は防水透湿性のある高機能素材DiAPLEX(ディアプレックス)をライニングに使っています。ポリマー分子が温度変化に対応して、水蒸気分子の透過量をコントロールする特性を持った素材なのだそうですが、防水スニーカーの見た目ではないデザインに搭載して、今っぽく着地しているところに面白さを感じました。
つくりを見ると革靴のような仕様もあり、どこか硬質な印象です。ファッション感度の高いスニーカーをスポーツ文脈でつくるのって、実はすごく難しい。最近では韓国の新興ブランドによく見られる分野ではあるんですが、やはり日本のブランドには経験値でかなわない。サンコアのようなブランドを見ると、その差が明らかです。春の新作にも楽しみなデザインがあって、またぜひ紹介したいと思います」(小澤)
03:Hender Scheme|Derrida
フットボールシューズに着想したスリッポン
「新作で発売されたばかりのエンダースキーマのスリッポンシューズです。トレーニングシューズからインスピレーションを得たガムソールや、甲部分には90年代後半から2000年代初期のフットボールシューズを彷彿とさせるステッチのデザインも反映されています。スリッポンだから革靴風にも見えるし、ソールを見ればスニーカー風にも使えるし、上手だなと思います。
フットボールシューズがトレンドだから履きたいとなるのは、よくあることですが、それをエンダースキーマのようにスリッポンでつくってみようと思うのはまた別の発想です。なんというか、実は近いところにお互いがいるけれど、一般的にはその距離や相性に気づかないもの同士をツイストすることで、こういう見え方があるんだとか、こういう履き方があるんだと、気づかせてくれるのがエンダースキーマの良さです。
エンダースキーマの『mip(エム・アイ・ピー/manual industrial productsの略称。傑作シューズを手工業で革靴として生産するシリーズ)』もそうですよね? 例えば名品バッシュをオールレザーでつくるというのは突飛なアイデアだけど、レザーにすると今まで気づかなかったディテールのよさを発見できたり。そのアプローチがいいなと思うんですよ。
『デリダ』も同じです。意外と思いつきにくいアイデアを、しっかりとした生産背景のある工場でつくると、こんな風にいいものが完成します。このスニーカーはいろんな視点から見て、ありだなと思う一足です」(小澤)
04:NIKE × DOVER STREET MARKET|NIKE Zoom Vomero 5
DSMコラボならではの奥行のあるブラック
「2020年頃から注目されるようになったボメロ 5。ボメロは2000年代後半にエア マックスとは違う快適性を謳ったシューズとして登場しました。中でもこのボメロ 5はいろいろなコラボにY2K文脈で使われたりするのでファッションのイメージが付いていますが、パフォーマンスシューズとしては最新の17まで発売されていて、バージョンによってアッパーのデザインはかなり変わります。
ボメロはいつも時代に忠実なデザインで、最新のものもいいなと思って見たりしています。共通しているのはどれも履きやすいということ。アシックスのゲルカヤノ14とかニューバランスの1906みたいに、つい履いてしまうナイキって何だろう? と考えたとき、僕はボメロ 5だなと思います。
このトリプルブラックはオーバーレイにリフレクティブ素材を使用したドーバー ストリート マーケットとのコラボレーション。コム デ ギャルソン系のコラボスニーカーは、同じトリプルブラックでもインラインのものとは奥行が全然違います。ご存じの通り黒で何かを表現するのが得意なブランドなだけあって、素材の組み合わせ方などすべて意味のあるデザインになっているので、この“黒の幅”をぜひ楽しんでほしいです」(小澤)
05:pg|OLIVER
90年代の仏トレッキングシューズに着想した注目作
「富ヶ谷のスニーカーショップ、プレイグラウンドはご近所ということもあって、週末に出かけて行って草賀(雄介/pgのデザイナー)さんとも話をしたりしています。行って感じるのはとにかく海外の人がよく来るなということ。先日もパリからの客人を案内すると、とても喜ばれました。pgはメジャーなスポーツブランドにはない、新鮮さと引き出しの面白さがあります。
スニーカーコレクターとしても有名な草賀さんは、とにかくマニアックで、しかもかなり天邪鬼な性格。その天邪鬼という視点は大手メーカーも近年、注目している部分です。このモデルは90年代に渋谷・原宿界隈のセレクトショップで売られていたフランスのトレッキングシューズがモチーフ。ビブラムソールでアッパーもレザーだから、ほぼほぼブーツのように見えますが、pgらしくFREELOCKシステムを付けてアレンジしています。ディスクを回してフィットするときにもたつきがちなシュータン部分も、ネオプレーンのインナーソックを採用することで違和感を解消。シューズメイクに精通している草賀さんらしいアイデアです。
草賀さんが『90年代に赤いスエードのトレッキングシューズにリーバイス501の66を履いて、オルテガのベストを着ていた原宿プロペラのショップのスタッフがカッコよかったことをふと思い出して、pgなりに現代的につくってみた』と話していたように、テック系のパンツではなくリーバイスのジーンズに合わせたりするのもよさそうです。重厚感もあって、冬にいいのではないでしょうか」(小澤)
![小澤匡行プロフィール画像](https://img.webuomo.jp/article/parts/image/1e/1e072423-5743-4b13-8f31-7f0d8fa5edc0-1280x1280.jpg)
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。