2023.10.25
最終更新日:2024.03.08

『スペアタウン~つくろう自分だけの予備の街~』第1巻発売記念。清野とおると、夜の蒲田へ!

愛するホームタウン・赤羽に代わる予備の街=スペアタウンを探すという、異色のマンガ連載がUOMOサイトで始まって約一年。10月26日の単行本発売を記念して、著者の清野とおるにインタビュー!

『スペアタウン~つくろう自分だけの予備のの画像_1
蒲田駅
漫画 2
漫画 1

10月中旬のとある週末。単行本の校了を終えた清野さんがインタビューの場所に指定したのは蒲田。第1巻では池袋、蒲田、多摩センター、熱海、豊橋と5つのスペアタウン候補を訪れているが、どの街も来れば来るほど解像度が上がり、「スペア度」が高まるという。果たして今日は蒲田のどんな一面を見ることができるのか。駅直結の東急プラザ屋上にある「かまたえん」にて、缶チューハイを片手にたそがれる清野さんを発見した。


デパートの屋上遊園地

「はぁ…落ち着きますね。昔は各地で見られたデパートの屋上遊園地も次々と消えゆき、ここが東京唯一の生き残り。開放されたフリースペースでオジさん、オバさん、カップルが各々にくつろぐ風景には、赤羽と同じニオイを感じます。住民の方々の居場所が当たり前に存在するということは、スペアタウナーである僕の居場所にもなりうるわけで、『幸せの観覧車』という幸せの押し売りネーミングも微笑ましいもんです」

漫画 3

「風の丘」と名づけられた飛び跳ねて遊べる空気膜遊具に子どもたちが集まり、無心に跳ね続ける様子を眺める清野さん。

「作中でみかん大福をいただいた時は平日で、いるのは大人ばかりでしたが、週末は家族連れも多いですね。子どもたちの満面の笑みが素晴らしい。延々と同じように跳ね続けているように見えますが、実はひとつひとつのジャンプに違うバランスや新しい動きを見いだしているかもしれません。……あっ! 今、ヘンな虫がいましたね。セミほどの大きさでハエみたいなスピード&モーションで飛んでいました。見ましたか!?」

全然気づきませんでした。謎の虫を発見できる清野さんの感覚も、子どもに近いのかもしれない。それこそ、街を訪れては、普通なら見過ごすであろうさまざまな不思議や怪異を見い出せる理由なのかも。


日も暮れてきたので、「かまたえん」を後にして飲み屋街を本格的に散策することに。道すがら、とある場所に案内してくれた。

「スペアタウンたるもの、絶対にあって欲しいのが10分1000円カットのお店です。赤羽で僕の生活の一部になっているチェーン店をおさえないと、リアルに住むことが想像できませんから。蒲田の駅ビルに存在しているはずが、なかなか見つけられなくてひと苦労しましたよ。レンタルビデオ店の中をぐるぐると回った奥にひっそりとありました。分かりづらすぎますが、安心しました」

レンタルビデオ店
QB HOUSE

単行本収録「蒲田 緊急特別編」にも出てきたQB HOUSEへの寄り道を経て、辿り着いた一軒目は「信濃路」。こちらは作中では紹介されていないが、蒲田飲みの定番だ。

信濃路

「スペアタウンでは、刺激的な事件を望んではいません。不条理な店や人々の面白ネタを探したいわけじゃなく、気兼ねない日常の延長線で、普通の店で普通に呑んで過ごしたい。安寧を求めているわけです。そこでこの『信濃路』。一軒目には最高ですよ。立ち食いそば屋に見えますが、店内奥は呑むための席になっています。とにかくおつまみのメニューが豊富で、地元のおっちゃんたちはテレビを見ながら思い思いの肴で朝から晩まで呑んでいます。我々も真っ赤なウィンナーをハムエッグに飾って、笑顔とともに心穏やかに呑み始めましょう。お茶割り・レモンサワー・バイスサワーの彩りが信号機みたいで、なんとも美しいじゃないですか!」

信濃路 店内
サワー
ハムエッグ
カレー

肉じゃがやカレーの「ルウだけ」もいただき、1時間ほどで信濃路を後に。再び夜の蒲田を徘徊していると、煌々と光る提灯に照らされた台湾料理屋が出現。ここで清野さんのセンサーがはたらき、スピーディーに入店することに。

台湾料理屋

「ここもさっきの店と同じことなんですよ。派手ながらもありふれた佇まいが良さそうだなと。入口にホッピーの貼り紙があったのもダメ押しですね。あれ?……あの店員のお姉さん…赤羽の中華居酒屋でも見かけたような覚えが。気のせいでしょうか。赤羽に通ずる空気感による錯覚ですかね」

台湾料理屋 店内
ハツモトの唐辛子炒め
焼きそば

「自慢のメニューということで素直に頼んだハツモトの唐辛子炒めと焼きそばが美味し過ぎますね。今日は蒲田に住んでいるつもりで呑んでいますから、捻った注文をする必要はありません。地元の方々がカウンター席でしっぽりやっていたり、テーブル席に集まったご近所さんが語らったりしているところに、ひっそりお邪魔して、気負わずに美味しいツマミとホッピーを楽しむ。しかし、さっきはありふれた店を見つけたなんて言っちゃいましたが、ここは蒲田に住んでいたらリアルに通うであろう名店ですね!」

店員のお姉さんが料理やお酒を運んでくるたびに、「注文の仕方がウマイネ」と褒めてくれたので、きっと地元民らしいこなれた頼み方だったのだろう。もしくは蒲田流のリップサービスか。


「やっぱり蒲田は何度来てもいい街です。僕は、いろいろな人がいて、その人たちがありのままに暮らしている街のほうがホッとできます。再開発の便利さや流行を共有する楽しみもあるんでしょうが、ローカルのお店やデパートが消えて、画一的な商業ビルに変わっていくのはつまらなく感じてしまう。なんの肩書きも無かろうが、大きい声では言えない事情があろうが、誰もがそのままの姿で暮らしている街こそ心地いい。珍妙な出来事も自然と起きますしね。安寧でありながら面白いんです。……その点では、実は期待している街はまだまだあるんですが、巡りきれていません。蒲田に心を奪われているとはいえ、まず明日からは大阪の西成に出向こうと思っています。一生を添い遂げたいスペアタウン探しは、もう少し続けさせていただきますね」

漫画 4

単行本制作に伴い中断していたUOMOサイトでの連載も12月には再開予定。お楽しみに!


『スペアタウン〜つくろう自分だけの予備の街〜』1巻

『スペアタウン〜つくろう自分だけの予備の街〜』1巻 ¥1,320  10月26日発売

人生、いつ何が起こるかわからない…今の街に住み続けたくても、引っ越さざるを得ない日が訪れてしまうかもしれない…。有事に備えて清野とおるは、愛する赤羽と同じ感覚で住める予備の街=スペアタウンを探し始めた。待望の第1巻では「池袋」「蒲田」「多摩センター」「熱海」「豊橋」の各エピソードに加え、単行本特典として書き下ろし記事&描き下ろし漫画計20ページも収録。

https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790142-9


清野とおる
1998年漫画家デビュー。『東京都北区赤羽』『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』『東京怪奇酒』『全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの』など、ドラマ化作品多数。自身が街を歩く中で体験した事柄を漫画に落とし込んだ作風は、シュールでありながら人情味のあるタッチが人気を集め続けている。



Interview&Text:Takako Nagai

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