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「フィンランド中が涙した!」という触れ込みを聞き、 足を運んだ話題のサウナ映画の試写会。『かもめ食堂』ばりの 北欧ほっこりムービーかと思いきや、身につまされる内容に一同 サウナとの向き合い方をあらためて見つめ直すことに…。
「汗は出ないが、涙が出る」。そんな噂を耳にしていた映画『サウナのあるところ』を観てきた。普段は寡黙なフィンランドの男たちが、サウナ室では身も心も裸になり、胸の内に秘めた大切な感情を吐露していく。言葉につまると、おもむろにロウリュを足す。“ジュ~”という芳しい音色が、悲しみを湯気のように浄化させていく。そんな優しい映画だった。
汗も涙も出なかったが、ため息が出た。映画に対してではない。自分たちが今まで、いかにナンパな気持ちでサウナに興じてきたか、に対してだ。フィンランドのサウナは日本と違い、ロウリュでバンバン蒸気をおこし、その熱波を全身で浴びるスタイル。そこには、熱い蒸気を五体で受け止めることで、わが身にこびりついた不浄を取り除くような――まるで沐浴にも似た神聖な感覚が確かにある。サウナで涙を流し、自らを清め穢れを洗い流すのも、ある意味フィンランド流の“ととのい”方なのかもしれない。まあ、実際にフィンランドで本場のサウナに触れてきた俺とは違い、同行した3人にはレベルが高すぎただろうが…。
「たまには、自分と向き合うメディテーション目的のサウナも悪くない」。そう思い、真摯な心で試写会後に足を運んだ夕暮れ時のサウナ。しかし…結果、いつもどおり熱波を楽しんでしまった。目いっぱいハシャいで気持ちよくなってしまったのだ。反省…。いや、でもそれでいい。サウナで泣きたいときは泣けばいい。笑いたいときは汗をかきながら笑顔になればいい。この身体から流れ落ちる汗も涙も、きっと成分は同じなのだから…。
SHOWのひと言メモ
フィンランドでは1年以上のロングラン上映を記録したという本作。これを号泣映画ととらえるか、シュールと思うか、“ある意味ウケるw”と笑い飛ばすか…それは、映画館でアナタがその目でジャッジすればいい。とにかくジャンルレスな新感覚サウナムービーだが、これを観れば自らのサウナ観が180度変わることだけは、間違いない。
今回のサウナ:[映画] サウナのあるところ
サウナでロウリュを浴びながら、人生の悩みを汗や涙とともに洗い流す。そんなフィンランドの男たちの日常を描いた異色のサウナドキュメンタリー。キャンピングカーや電話ボックスなどユニークなサウナも登場。9月14日よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開。©2010 Oktober Oy.
※UOMO2019年10月号掲載。内容は本誌発売当時のものです。
室木おすしプロフィール
イラストレーター。マンガ家。1979年生まれの三児の父。ペンネームである「おすし」は、寿司屋でのアルバイト経験から。単行本『悲しみゴリラ川柳』『貴重な棒を持つネコ』『君たちが大人であるのと同じく』発売中。UOMOでは『プロサウナーSHOWの熱波に焦がれて…』に続き『プロテイナーYUSUKE』を連載。