2024.03.19
最終更新日:2024.03.19

絶景の飯田線|ダーリンハニー・吉川正洋と一泊二日でのんびり走破【今こそ、鉄道旅に出よう】

鉄道好きタレント吉川正洋さんと行くのは、ローカル線の雄と呼ばれる飯田線。始発から終点までなんと全94駅。鈍行で行こうと思ったら最低でも6時間はかかる長旅で、時に苦行とさえ呼ばれる長距離路線である。1泊2日で沿線の景色はもちろん、なにもない秘境駅をじっくりと味わう贅沢を体験しよう。

絶景の飯田線|ダーリンハニー・吉川正洋との画像_1

鉄道ファンの憧れ秘境を駆け抜ける飯田線

飯田線

愛知県の豊橋駅から、静岡県を抜けて、長野県の辰野駅まで結ぶ長距離路線。戦時中に4つの私鉄(豊川鉄道、鳳来寺鉄道、三信鉄道、伊那電気鉄道)が一つになって生まれた経緯もあり、ローカル線にしては駅間隔が短く全長195.7kmの間に94もの駅がある。車でたどりつけないような山奥の「秘境駅」も多く存在し、鉄道ファンなら一度は乗りたい憧れの路線として知られている。

ダーリンハニー 吉川正洋

Masahiro Yoshikawa
芸人。芸能界屈指の鉄道ファンとして知られ鉄道関連番組でお馴染み。2児の父で列車にちなみ「こまち」と「はくと」と名づけた。

トップス¥77,000・パンツ¥41,800/パストルノヴァ スニーカー¥10,450/ハイテック(ムーンスター カスタマーセンター) バックパック¥25,300/ニューライフプロジェクト(にしのや) スウェット・ソックス/スタイリスト私物 メガネ/本人私物

どうしてここに駅をつくったのだろうと、過去に思いを馳せる

 吉川さんと飯田線の出会いは幼少期。「大好きな時刻表を読んでいたら、とんでもない駅数を抱える路線があることに気がつき行ってみたいと思ったんです」。飯田線の魅力は険しい山をかき分ける線路から見える車窓の景色と、それらに秘められた物語だ。飯田線の歴史をひもとくと、山間部の開発が原点。それゆえ、自ら切り拓いた路線がダムの下に沈んでしまったこともある。山をくりぬいてトンネルにしようと試みたが、工事が難航し、結局山を迂回して駅間が結ばれたこともあった。「自然という大きな壁に直面し、立ち向かってきた知恵の歴史ですね」。私鉄4社が一つの路線になった名残で停車駅が多い。それゆえ鉄道ファンの修行場といわれることもある。本数が少ないから、一度途中下車するとなかなか列車が来ない。待ち時間、時刻表で駅名を眺めながらその由来を考える。どうしてこんなところに駅をつくったのだろうと過去に思いを馳せる。人気の秘境駅で何人もの乗客が降りると、一人ではないという安心感と同時に違和感も感じる。「せっかくなら貸し切りで楽しみたいと思ってしまいますよね」。そのくせ、自分しか降りないとだんだん心細くなってくる。だから列車が来るとほっとする。遠くから近づいてくる列車をまず耳で感じる。次に目で見て、乗って楽しむ。ほとんど乗客がいない列車に乗り込んで、座席に腰を下ろすと安心している自分を感じる。一人になりたい、秘境に行きたい、それらは都会に戻りたい自分を痛感する時間でもある。
「飯田線の旅は苦しいけど楽しい。それはまるで人生のようです」


START 豊橋 ▶︎ 鳥居 ▶︎ 城西 ▶︎ 小和田 ▶︎ 平岡 ▶︎ 田本 ▶︎ 沢渡

DAY1

「豊橋駅」を出て、いざ飯田線の旅へ。車内のお供は“助六弁当”

豊橋8:11発 511M列車

助六弁当

飯田線の始発駅「豊橋」は、江戸時代から東三河の交通の要衝として栄えた。東海道本線、名鉄名古屋本線、そして東海道新幹線が停車するこの大きな駅から、旅は始まる。吉川さんが手にしている駅弁は明治末期から豊橋駅構内で営業している壺屋の助六寿司。お稲荷さんは、飯田線沿線にある豊川稲荷の名物だ。

ダーリンハニー 吉川正洋 2

豊橋駅ホームに到着した列車からは通勤・通学中らしき乗客がたくさん降りてくる。ローカル線といえども、沿線住民の大事な足であることを再確認。8時11分、列車はホームを滑るように出発。豊橋を出てしばらくは飯田線と名鉄線が同じ線路を共有する珍しい区間だ。豊川稲荷でお馴染み豊川駅を過ぎると、左手に新幹線車両を製造する「日本車輌製造」豊川製作所へつながる専用線が見えて、テンションが上がる。


待合室のみのシンプルさに秘境の始まりを感じる「鳥居駅」

鳥居9:24着

鳥居駅
鳥居駅 2

戦国時代に活躍し忠臣として名を残した鳥居強右衛門が駅名の由来だ。一日の乗降者数は130人ほどだそう。目の前に踏切があるが車の往来は少ない。ホームの前は開けた道で、石積みのホームを正面から撮影できるのもこの駅のポイント。

鳥居駅 3

9時24分鳥居駅着。ボタンを押してドアを開け、ホームに降りる。小さな待合室がポツンとある。乗ってきた列車が去ってしばらくすると豊橋に向かう列車がやってきた。次の列車まで1時間。駅から10分ほど歩くとコンビニがあった。コーヒーを購入して駅に戻り、寒さに震えながら次の列車を待つ。


“渡らずの橋”を通る飯田線を眺めに「城西駅」で下車

鳥居10:23発→本長篠10:28着 515G列車
本長篠11:59発→城西13:01着 519M列車

城西駅
城西駅 2

昭和30年の佐久間ダム建設に伴い天竜川沿いを走る飯田線も一部水没することになり、旧路線にあった豊根口駅、天龍山室駅、白神駅は線路とともにダム底に沈んだ。ルート変更に伴って生まれたのが城西駅だ。新ルートは水窪川沿いに迂回する形をとり、相月駅、城西駅、向市場駅、水窪駅が新たに開業した。城西駅はかつて2本の線路を有する島式ホームだったが現在は1線のみ。一日の平均乗降者数は15人。待合室はあるが列車を待つ人の姿はない。駅から10分ほど歩いた城西大橋は鉄道ファンにお馴染みの撮影スポット。渡らずの橋「第6水窪川橋梁」を一望できる。

渡らずの橋

本長篠駅で1時間ほど次の列車を待ち、13時01分に城西駅に到着。駅を降りたら川沿いを歩き、撮影スポットに向かう。見事なS字を描いた鉄橋は、行っては戻る通称「渡らずの橋」。いったん川を渡った後、対岸ではなくまた元の岸に戻っていくのがわかる。もともと山にトンネルを掘って線路を建設する予定だったが、不安定な地盤で工事が難航したことから山を迂回するルートが選ばれて現在の不思議な形状に至った。遠回りしても最終的に目的地に着けばいい。鉄道は人生に似ている。


飯田線随一の秘境「小和田駅」を降りればそこには息をのむ絶景が

城西15:49発→小和田16:11着 527M列車

小和田駅
佐久間ダムの湖だった美しい水面
佐久間ダムの湖だった美しい水面 2

旅人が残した思い出帳をボーッと眺める。趣ある駅舎を出て急坂を下ると、かつての佐久間ダムの湖だった美しい水面があった。周囲に何一つなく、クルマでも到達できないことから秘境駅ブームの火つけ役にもなった場所で、絶景を心ゆくまで堪能してみる。


1日目は「平岡駅」で終了駅直結の宿でエネルギーをチャージ

小和田17:16発→平岡17:32着 531M列車

平岡駅
龍泉閣

DAY2

平岡7:52発 1507M列車

天竜川の川面

17時32分平岡駅着。駅直結の「龍泉閣」で1日目の旅を終える。アルカリ性単純泉とおいしい食事で英気を養ったら、翌朝7時52分発の列車で2日目スタート。学生と一緒に列車に揺られながら朝日に輝く天竜川の川面を眺める。


絶壁に立つ「田本駅」で山の静けさを独り占め

田本8:11着

田本駅

鉄道ファンなら誰もが一度は行きたいと願う秘境駅の一つ。切り立った岩壁沿いにカーブする狭い駅ホームからは天竜川が望める。線路脇にある狭い階段を上ると見晴らしのいい高台があり、そこからホームを一望。駅の姿にあらためて驚く。高台の先の狭い道を抜け20分ほど歩くと人家があるというがそこまで足を延ばす勇気はない。一日の平均乗降者数はわずか2人だとか。

8時11分田本駅到着。ドアを開け降りたのは私たちだけだった。ホームに降りた瞬間に感じたのは圧迫感だ。目の前には切り立った崖。安全を確保する黄色い線は狭いホームの真ん中に位置していて、自然と壁沿いを歩くことになる。特急列車が通過する際はさぞかしスリリングなことだろう。駅を一望する展望台に行くと、思わずヤッホーと叫びたくなり、遠くの山から少し遅れてこだまが返ってきた。


旅の締めは「沢渡駅」から歩いて、JR最急勾配スポットへ

田本8:47発→天竜峡9:08着 219M列車
天竜峡9:14発→飯田9:40着 1509M列車
飯田9:43→沢渡11:06着 219M列車

JR全線で最も急な40‰(パーミル)の勾配がある区間

沢渡~赤木間は現在JR全線で最も急な40‰(パーミル)の勾配がある区間として知られる。この急勾配を、飯田線の列車は日々上り下りしている。いつもと少し違う角度で見るのも、またいい。

沢渡駅

天竜峡駅を過ぎたあたりで山間部を抜け、周囲の景色が開けていく。トンネルを掘らず、地形に合わせて線路を敷設したことで生まれた「オメガカーブ」と呼ばれる急カーブも見どころだ。焼き肉の街としてお馴染み、飯田線随一の拠点である飯田駅を過ぎると、左手に南アルプス、右手に中央アルプスが見える。周辺に人家が増え旅の終わりを予感させる。沢渡駅で下車し「40‰」の標識がある藤沢川北踏切へ。急坂を一気に駆け上る列車は圧巻だ。



Photos:Ayumu Yoshida
Stylist:Eriko Asakura
Text:Masataka Kin

RECOMMENDED