風呂のプロはどんな風呂が好きなのか? どんな思いを抱いて入湯しているのか? 現代の日本を代表する個性派銭湯の店主3人に尋ねてみた。
「堀田湯」店主大塚 輝さん
落ち着く銭湯の条件は?
清潔で、清掃がしっかり行き届いている銭湯。
よその銭湯を訪れた際、どこを見る?
カランの鏡。きれいな鏡を保つことにすごく苦労しているので、ほかの銭湯さんはどのくらいきれいに保てているのか気になります。
好きな湯の温度は?
43~44度。あつ湯は慣れてる人しかなかなか入れないので、周りの人が熱がって入れない中平然と浸かっていられることにプロ感を感じます(笑)。あとは単純に、素早く身体の芯から温まることができるので。
好きなお風呂は?
あつ湯。プロ感が出るから。ぬるい水風呂。ずーーーっと浸かることができて、かつ、とてもリラックスできる。
この数年で出会ったベストワン施設は?
「草加健康センター」の薬湯。ものすごい薬草の匂いや、肌のピリピリ感で身体によさそうな感じがビンビンするから。
リスペクトしている銭湯は?
「小杉湯」さん。
「やられた!」と思ったアイデアは?
小杉湯さんの「もったいない風呂」。
※編集部注。果物から日本酒まで、品質上問題なくても、形が悪いなどの理由で廃棄せざるを得ない“もったいないもの”をお風呂に入れて生産者との共存を図ったプロジェクト。
堀田湯での湯巡りのフローは?
シャワー→サウナ室(6~8分)→水風呂(1分弱)→外気浴(8分)→露天風呂(10分)→あつ湯(3分)→ぬる水風呂(3分) TOTAL40~45分
湯あがりの定番の一杯は?
ど定番ですが、コーヒー牛乳。
サウナでととのうのに必要な条件は?
太陽の光。
最近の気になるニュースは?
新施設のオープン。
堀田湯 HOTTAYU
東京都足立区関原3-20-14
TEL:03-3852-4126
営業時間:14時~24時、土・日曜・祝日8時~
定休日:第2木曜
HIKARU OTSUKA
1995年千葉県生まれ。前職の結婚式プランナーを務めている最中に、現在の堀田湯のオーナーと出会い、2021年より堀田湯の店長に就任。翌’22年、リニューアルオープンを果たす。
「サウナと天然温泉 湯らっくす」店主西生吉孝さん
よその銭湯を訪れた際、どこを見る?
ロッカー上のほこりと浴場カラン下のぬめりはチェックします。あとそこの店主が偏愛しているであろう場所を見つけて、なぜそこを偏愛しているのかと思いを巡らすのが好きです。
好きな湯の温度は?
39度。入浴中は「何も考えない・考えたくない」ので刺激がない温度がいちばん心地よい。
この数年で出会ったベストワン施設は?
旭川の「スパ&サウナ オスパー」。息子(10歳)と初めての二人旅で行った銭湯。今年の夏の話ですが、いまだに息子が「旭川でお風呂入ってパパと一緒にサウナ入った」と楽しそうに語ってくれるので、思い出深い風呂になってます。地下水も冷たくてよかったです。
リスペクトしている銭湯は?
今は存在しませんが大阪の「ニュージャパンサウナなんば店」。「人は人で癒やされる」を合言葉にさまざまな人的サービスが優れたお店でした。若い頃から学ばせてもらいました。
「やられた!」と思ったアイデアは?
大阪の銭湯で鏡広告を復活させたというウェブ記事を見つけたとき「やられた!」と思いました。それをヒントに、広告というより新しい浴場内のコミュニケーションツールとして鏡広告を活用できないかと現在製作中。
湯らっくすでの湯巡りのフローは?
かけ湯→シャワー→温泉→サウナ室(10分)→水風呂(1分)・外気浴(5分)を2セット→洗体→露天風呂→締めは水風呂 TOTAL40〜50分
サウナでととのうのに必要な条件は?
そもそも「ととのう」ためにサウナに入らない。どんな環境でもぼーっとできる場所を自分なりにつくるので、特に条件はない。条件をつけてそれにそぐわないと、とても腹が立つので「あきらめ」の気持ちで臨んでいる。
最近の気になるニュースは?
多くの反対意見もいただきましたが最近「湯らっくす」ではサウナ室のテレビを半ば強行する形で撤廃しました。テレビの音声や映像がたまに無茶苦茶必要ない情報だったりする(殺人事件のニュースとか)ので、そういう要素を省きたかったのがいちばんの理由です。
サウナと天然温泉 湯らっくす
SAUNATOTENNENONSEN YULAX
熊本県熊本市中央区本荘町722
TEL:096-362-1126
営業時間:24時間営業(8時~10時は大浴場の清掃中)
無休
YOSHITAKA NISHIO
1968年熊本県生まれ。2016年「湯らっくす」代表に就任。熊本地震を経て、’17年に大幅リニューアル。171㎝の水風呂「MAD MAX」やメディテーションサウナなどが名物。
「サウナの梅湯」店主湊 三次郎さん
よその銭湯を訪れた際、どこを見る?
銭湯周辺の街全体の様子。銭湯で繰り広げられる会話のテンション。常連さん同士や店主とお客さんの会話など。
好きな湯の温度は?
43度少しの我慢できる熱め。早く温まって、早く風呂から上がりたいので!
リスペクトしている銭湯は?
伊賀の「一乃湯」さん、岡山の「清心温泉」さん(現在は廃業)。一乃湯は地方ながら、10年以上も前から、雰囲気に合ったディレクションがなされていました。シャンプーや石けんをオーガニックなものにしたり、地元の牛乳屋さんのジェラートをセレクトしていたり、当時は都内でもそんな銭湯は珍しかったので、衝撃的でした。清心温泉は、月数回の営業という独特のスタイルで、街から銭湯を消さないという試みをされていました。特筆すべきは、ポスティングや街頭でのお客さんの呼び込みなど、他業種では当たり前にやっていることに地道に取り組んでいた点。また、店主のカリスマ性とコアなお客さんによる巻き込み型コミュニティの形成など、お金ではない部分でここまでできるのかと、ポテンシャルや存在意義を感じられる銭湯でした。
「やられた!」と思ったアイデアは?
「錦湯」でニシキヘビを呼んだイベント(2013年。現在は廃業)。これにはまさに膝を打つしかなかったです。ほかには、横煙突部分にステンレスのフレキホースを巻きつけて、熱交換を行うシステム。どんな熱も逃さないという執念を感じました。
梅湯での湯巡りのフローは?
とにかく早風呂。身体と頭を洗う→電気風呂→深風呂→脱衣場。15分以内に出る心がけ。
湯あがりの定番の一杯は?
エネルゲン。
サウナでととのうのに必要な条件は?
サウナに入らないので特にないのですが、銭湯において、ととのいの概念や形式をもち込みすぎることにははなはだ疑問。ととのうことにのみ縛られて、銭湯ならではの、表現し難い感覚や感情に包まれる機会を失っているように思う。サウナーがちょっぴりかわいそうだ。ととのいの呪縛から解放されてほしい。
サウナの梅湯 SAUNANOUMEYU
京都府京都市下京区岩滝町175
TEL:080-2523-0626
営業時間:14時~26時、土・日曜6時~12時、14時~26時
定休日:木曜
SANJIRO MINATO
1990年静岡県生まれ。銭湯活動家。株式会社ゆとなみ社代表。「銭湯を日本から消さない」を信条に「サウナの梅湯」「源湯」「容輝湯」「みやの湯」「人蔘湯」「一乃湯」「鴨川湯」「湊河湯」を継業。