お風呂。それは男たちにとって癒やしを超えたワンダーランド。過熱するサウナブームに、老舗の町銭湯のリノベーション、大型スーパー銭湯の進出…われわれを取り巻く“浴”環境がダイナミックに移ろいつつある中、どうお風呂と向き合うのが正解なのか? サウナ&銭湯に魅せられた大人たちの変わらぬ、お風呂愛の告白。どうぞご湯っくりお楽しみください。
最初のビールを
とにかくおいしく飲みたくて
佐久間宣行(テレビプロデューサー)
ひだまりの泉 萩の湯HIDAMARINOYU HAGINOYU
都内最大級の規模と設備を誇る銭湯。1階が入り口、2階が受付と食事処、3階が男湯、4階が女湯と、それぞれワンフロアを使っているので、広くて大きい。早朝6時からの朝風呂も人気。
東京都台東区根岸2-13-13
TEL:03-3872-7669
営業時間:6時〜9時、11時〜25時
定休日:第3火曜
テレビプロデューサーとして数多くのヒット番組を手がけるだけでなく、ラジオパーソナリティを務めたり、自身のYouTubeチャンネルを運営するなど、多忙な日々を送る佐久間さん。銭湯は以前から好きで、何だかんだで週に一度はどこかの銭湯に行っているそうだが、そもそものきっかけはテレビ局でADとして働いていた時代へと遡る。
「大学生になって上京してきたとき、最初は寮に入ったので、寮の友達とたまに銭湯に行ったりはしていたんですけど、本格的に行くようになったのはADになってからですね。ADの仕事って不規則なので、家にもなかなか帰れないし、全然お風呂に入れないときがあったりして、空き時間を見つけては会社近くの銭湯に行くようになったのが始まりです」
当時はとにかくお風呂に入ることが目的で、楽しむ余裕はなかった。銭湯に行くことが楽しみになったのは、30代になってからだという。
「それまでは本当に自分の時間なんかなかったんですけど、30代になってちょっと余裕ができて、会社の仲間とかといろいろなおいしいお店に食べに行くようになったんです。気に入ったお店は定期的に通うようにしていて、それこそ20時にそのお店を予約しているとしたら、1時間くらい前には行って近くの銭湯に入るんですよ。汗を流してスッキリしたいというのもありますが、いちばんの目的は最初のビールをとにかくおいしく飲みたいから(笑)。時間ギリギリまで入って、お風呂から上がっても水分はとらずに我慢して、お店に行ってビールを飲む。これが本当においしいんですよ。『このお店に行くときはこの銭湯へ』というのは決まっていて、例えば鶯谷にある『鶯谷園』という焼き肉屋に行くときは、そこから歩いて3分ぐらいのところに『ひだまりの泉 萩の湯』があるので、いつも『萩の湯』でお風呂に入ってから行っています。焼き肉とかお寿司のときはほぼ間違いなく銭湯に立ち寄りますね。そういう感じでお店と銭湯がセットになっていて、それが都内だけでなく、全国各地にあるんです」
銭湯はおいしくお酒を飲むために行くところ。だから、仲間とご飯を食べに行くときは、どんなに忙しくても時間をやりくりして立ち寄るようにしている。
「そんなタイミングでよく行くねと言われるくらい、15分のすき間とかでも行っちゃいますね。ただ、銭湯は好きなんですけど、僕の場合、おいしくお酒を飲んでご飯を食べるために銭湯に行っているので、銭湯を目的にわざわざ遠出するということは基本しません。ガチなサウナ好きの人とかだと、『サウナしきじ』に行くためにわざわざ静岡に遠征したりするけど、僕はまず先においしいものがあって、それをよりおいしく味わうためのコンディショニングとして銭湯に行く感じです。このあいだも京都で撮影があって、日帰りで東京に戻れるんだけど、別に焦って帰らなくてもいいスケジュールだったので、その場でホテルをとって、お店も予約して、近くの『白山湯 六条店』にパッと行ってきたんです。翌日の朝は『梅湯』が朝風呂をやっていたから、6時に入って、そのあとホテルの朝食を食べて帰りました。今月と来月は広島と北海道にも行くんですけど、そこで食べるご飯とお風呂は全部決めています。ホテルよりも先に予約してますから(笑)。旅先の銭湯はやっぱりいいですよね。いわゆる観光スポットっぽいところよりも、地元の人が行っているところのほうが面白いです。僕、おじいちゃん、おばあちゃんがいるところがけっこう好きなんですよ。銭湯でも会話しますし、それがラジオで話すネタになったりしています」
何はともあれ、ご飯とお風呂をセットで考えるのは楽しいし、本当におすすめだと佐久間さんは話す。
「お風呂に入ったあとのビールのうまさを知らないんだとしたら本当にもったいないですし、こんな楽しいことを日常的にやっていないのが信じられない。お酒を飲んで家に帰ってからお風呂に入るよりも絶対いいと思いますけどね。30分早くその街に行って銭湯に入るだけで、お酒もご飯もずっとおいしく感じられるし、それだけで人生が豊かになる気がします」
Interview&Text:Masayuki Sawada
Illustration:Masaki Takahashi