老後に向けて効率よく資産形成するには、どんな商品に投資して、どう運用するのが最適なのか。ここでは40歳を想定した資産運用のモデルケースを、毎月の運用資金別にケース分けしてお金のプロに指南してもらった。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、株式会社オコスモ代表取締役。金融機関向けにビジネスコンサルティングやサービスの立ち上げ推進を行う傍ら、講演活動やメディア記事の執筆・監修を手がける。
新NISAで毎月一定額を年率5%で20年運用した場合
※ただし、つみたて投資枠を優先的に使うと、月10万円の場合は15年目、月20万円の場合は8年目にそれぞれ非課税枠の上限に達するため、以後は特定口座での運用とする(金額は税引き前)。
case1|月々3万〜5万円を投資できるなら?
王道の分散投資で堅実に資産を増やしましょう
毎月の投資可能額が3万円程度の場合、投資だけでなく節約や転職・副業といった収入アップの方法も検討しながら資産形成を図るほうがいいでしょう。家計の安定を最優先に、まずはつみたて投資枠をベースに投資対象が分散された商品で運用して堅実に資産を増やすことをオススメします。オールカントリー型の投信・ETFなら地域分散が、バランス型投信なら投資商品の分散がきいています。そこにさらなる安定を狙い、債券投資も組み合わせれば、かなり手堅いです。債券は発行体が債務不履行にならない限り満期時に額面どおりに償還されるため比較的安全な商品とされています。新NISAでは債券を直接買付できませんが、ETFや投信を通じて投資可能です。各国の債券を組み合わせた投信で地域分散を図ることで、安全性はいっそう高まります。
case2|月々10万円を投資できるなら?
分散を緩めてリターン上積みを狙う
月々10万円は、年収800万円前後の家庭である程度リスクをとった運用を検討できるラインです。オールカントリー型の商品などで地域分散するのではなく、特定の国の指数に連動する投資信託やETFで、リターンの積み増しを狙うのもアリ。持続的な経済成長を期待できる米国の資産を運用する投信・ETFが第一候補です。米国を代表する株価指数S&P500に連動する商品に、直近で利回りが高くなっている米国債を運用する商品を組み合わせるとリスク・リターンのバランスがよくなります。
case3|月々20万円を投資できるなら?
成長投資枠をフル活用しましょう
年収1200万円前後でリスク許容度が高められると想定される場合は、成長投資枠の年間上限240万円をフル活用して機動的に売買し、非課税の恩恵を最大限に受けたいところです。アクティブETFをスポット的に活用したり、企業分析の手間はありますが米国や新興国などを含めた個別株を取り入れるのも手。注意すべきは効率的な資産形成につながらない商品で運用してしまうこと。例えば高配当株は企業が成熟していることから大幅な株価の値上がりが望みにくく、非課税の効果を最大限生かすという意味では、もったいない選択になってしまいます。
安定した分散投資なのか、アクティブな個別運用か
投資で最も大事なのは、生活に支障をきたさない余裕資金を使って、身の丈に合った運用をすることです。背伸びをしても、株価の下落で精神的に追い詰められてしまったり、投資を諦めてしまうおそれがあります。ご自身の性格を勘案して、リスク(資産の価格変動)を抑えて慎重に運用したい人は、年収や余裕資金額にかかわらず、ケース1の商品構成を参考にしてもかまいません。
ただし、リスクが低い商品ばかりで運用すると、その裏返しとしてリターンも抑えられてしまいます。投資に慣れてきたら商品の乗り換えを検討するといいでしょう。ケース1では投資対象や地域の分散を通じてリスクを抑える運用を提案していますが、ケース2・3と進むにつれて徐々に分散の度合いを減らし、高いリターンを望める運用を紹介しています。
新NISAは非課税枠が無期限で、保有商品を売却すれば翌年に枠が復活するため、さまざまな投資スタイルを試せるようになりました。リスクを抑えた商品を毎月コツコツと積み立てることからスタートし、慣れてきたところで機動的な売買を行いリターンを高めていくといった使い方も可能です。ぜひ、ご自身に合った投資スタイルを探してみてください。
最後に、投資金額を増やす努力は欠かせません。無理は禁物ですが、現状で投資に回せる金額が少ない場合は、節約や副業なども視野に入れつつ「稼ぐ力」をアップさせながら投資金額を増やしていきましょう。
個別株投資のポイント
新NISAで個別株にチャレンジするなら、短期の値動きを追うデイトレードのような売買ではなく、少なくとも数カ月以上のスパンで投資し、値上がり益が膨らむまで待って非課税の恩恵を最大限に受けることを考えましょう。株価が割高すぎる企業は避けるべきで、それを判断する指標の一つがPER(株価収益率)。株価を1株あたりの純利益で割って算出するもので、PERが高い企業は、先々の利益まで織り込んだ株価になっており割高です。日本株の平均PERは歴史的に15倍近辺で推移しており、PERがあまりに高い企業への投資判断は慎重に。
投資信託とETFって?
投資信託(投信)は、投資家から集めたお金を運用会社が預かって運用する商品のこと。市場全体の値動き(指数)との連動を目指す「インデックス型」と、独自の方針で超過利益を狙う「アクティブ型」に分かれます。運用対象は国内外の株や債券など。同種の資産を複数組み合わせて運用するため、一つの投信を購入すれば自動的に分散投資が実現。定期的に銘柄が入れ替わりますが、NISA枠が減らないのはメリット。販売手数料や信託報酬が低い投信を選びましょう。ETFは上場投資信託とも言い、投信を証券市場で取引できるようにしたもの。投信よりもコストが安い傾向にあります。
知っておきたい株価指数
日経平均 (日経225)
東京証券取引所のプライム市場に上場する企業から、日本経済新聞社が225銘柄を選出して算出する。株価の騰落金額の平均を示すため、大型株の値動きに左右されやすい。日本株を代表する指数で、海外での認知度も高い。
TOPIX (東証株価指数)
東京証券取引所に上場する企業のうち約2100銘柄で構成されている。対象銘柄を時価総額で重みづけして指数を算出するため、日経平均よりも日本の株式市場全体の値動きの実態を把握しやすいとされる。
S&P500
米国を代表する500社で構成される指数。ニューヨーク市場に上場する銘柄の時価総額の8割をカバーしている。TOPIXと同じく時価総額で重みづけして算出しており、米国市場全体の値動きを表している。
MSCIオールカントリー・ワールド・インデックス
日本を含む先進国24カ国、新興国21カ国、フロンティア国25カ国の計70カ国に上場する大型株・中型株で算出する。時価総額の大きい米国株が約6割を占める。オールカントリー型投信・ETFがベンチマークとしている。